「デルタ株の感染拡大をワクチンだけでどうにかするというのはなかなか難しい」。河野太郎ワクチン担当相が白旗を掲げた。世界では接種後に感染する人が続出。たしかに“最終兵器”であっても、“万能”ではないのだ。ワクチンを過信するのは、逆に危ない。
新型コロナウイルスに3500万人以上が感染し、60万人を超える死者を出したアメリカ。この夏、ニューヨークやロサンゼルスでは、マスクを外した人々がディナーやパーティーで飲酒やダンスを楽しみ、子供たちは外を駆け回っていた。日常生活の規制が緩和され、人々は「コロナ前」に戻った生活を謳歌していた。ワクチン接種が広がり、ついに私たちはコロナに打ち克ったのだ! 多くのアメリカ市民がそう信じていた。
だが7月下旬、米疾病管理予防センター(CDC)は、「ワクチンを打てばマスクは原則不要」とする方針を急転換し、感染者が多い地域では、「屋内でのマスク着用を推奨する」ことを発表した。
ワクチンさえ打てば安心して生活を送れるのではないのか。なぜ接種後もマスクをしなくてはならないのか。国民の怒りに米政府が抱えるジレンマ──それが「ブレークスルー感染」である。国際医療福祉大学病院内科学予防医学センター教授の一石英一郎さんが説明する。
「通常、今回のワクチンは2回目の接種から2週間たてば免疫がほぼ定着するとされますが、それでも感染するケースが少なくありません。90%以上の感染予防効果があると謳われているワクチンを“突破”して感染することから、『ブレークスルー感染』と呼びます」
CDCの方針転換の背景には米国内におけるブレークスルー感染の蔓延がある。アメリカ東部・マサチューセッツ州では、7月にイベントや集会などを通じて469人が感染。その約74%にあたる346人はすでにワクチン接種を終えていた。感染者の7割がワクチン接種済みというクラスターが発生したのだ。
世界でも、オランダでは7月中旬に入院した人のうち、少なくとも14%が接種を完了していたと報告された。人口の約6割がワクチン接種を完了したイスラエルでは7月21日の新規感染者1336人のうち、ワクチンを2回接種していた患者は半数以上の52%に上った。
ワクチン後進国とされる日本も例外ではない。国立感染症研究所によると、6月末までの3か月間で67人のブレークスルー感染が確認され、20代から40代が8割近くを占めた。東京・港区では、7月中旬までの1か月間で感染の届け出があった1478人のうち131人が接種後の感染で、2回目接種から2週間経過していた感染者は15人に達した。
コロナ収束のための“最終兵器”として、各国が争奪戦を繰り広げたワクチン。たしかに「重症化を防ぐ」という効果はありそうだが、「感染を防ぐ」効果には疑問が投げかけられている。