歳を重ねるごとに増えていた服用薬が減らしたい──そんな悩みを抱えている人もいるだろう。減薬や断薬のために参考になるのが、実際に薬を減らせた人の事例だ。日本病院薬剤師会は2018年2月に『多剤投薬の患者に対する病院薬剤師の対応事例集』を公開。同会は多剤投薬の実態調査の一環として、全国48の病院から対応事例を集積し、内容を精査・厳選したうえで33の事例を詳細に紹介している。
多くの薬を1日に何度も異なる組み合わせで服用する場合、飲み忘れが生じやすくなる。飲み忘れにより期待する効果が得られず、さらに「薬の飲み残しが増える」という負のスパイラルに陥ることがある。
こうした場合、薬を減らして服用スケジュールをシンプルにすることで飲み忘れを防ぎ、症状の改善が期待できる。内科医の谷本哲也医師(ナビタスクリニック川崎)が解説する。
「薬は決められた量を決められた時間に飲まなければ、期待する効果は発揮されません。飲み忘れているせいなのに『薬が効かない』と医師に訴えることで、多剤処方が進んでしまうリスクもあります」
まずは有料老人ホームに入居中だった90代の男性(別表の症例)。高齢だが食事・排泄は自立している。入院前日に便が水のようになる状態が続いたので外来受診したところ、ノロウイルスが検出され、入院となった。
入院時に男性が服用していた薬は降圧剤や糖尿病薬、胃腸薬など全18種類。90歳以上と高齢であることから、多剤処方のリスクが問題視された。銀座薬局代表で薬剤師の長澤育弘氏が言う。
「この男性は薬が18種類と多いうえに、服用回数が朝食前・後、昼食前・後、夕食前・後、就寝前の1日7回と非常に多かった。ホーム入居中も薬は自分で管理していたようで、昼の分の薬が多く残っており、飲み忘れが目立っていたと報告されています」
男性の多剤処方で特に問題とされたのが、〈90歳以上と高齢であるが、糖尿病治療薬が4種類も処方〉されていた点だ。
「男性は高齢であることに加え、身長154cmと小柄な体型でした。これでは薬が効き過ぎて、重症低血糖を起こす可能性が高い。意識が遠くなったり、昏睡や痙攣などの重い症状が現われるため、高齢者は注意が必要です。
また、脂質異常症治療薬も処方されていますが、コレステロール値や中性脂肪値は入院時点で安定していたので服用の必要性はないと考えられる。頻尿の訴えにも薬が処方されていましたが、症状の改善は見られなかったということです」(長澤氏)