インターネット上の誹謗中傷への対策強化のため、刑法の侮辱罪が、懲役もある罰則の引き上げへと見直される見込みだ。女子プロレスラーの木村花さんの事件で男2人に略式命令がくだされ、9000円の科料だったことが報じられると、罰則が軽すぎるという声が上がっていたが、中傷に対して中川翔子さんをはじめ毅然と対応する芸能人も増えてきた。俳人で著作家の日野百草氏が、過去にネット上で誹謗中傷を実行し、相手に問い詰められ和解した経験をしている、かつての匿名掲示板住人に、貴重な加害者側の気持ちを聞いた。
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「和解して、とくに生活に変わりはなかったです。昔の話ですが」
新宿西口の地下にある古い喫茶店、ようやく口を開いてくれた青井学人さん(40代、仮名)が少し視線を落とす。「ようやく口を開いてくれた」とは昨年来ずっと、過去の誹謗中傷をした事実と、それにより和解に至った経緯を話して欲しいとお願いしていたからだ。「古い話です」といなされていたが、今年になって話しましょうかとメールがあった。
「自分が名無しの一般人でよかった、というのが本音ですね」
青井さんは1990年代末期、中小出版社で短い期間ながらゲーム誌の編集アルバイトをしていた。退職後の一時期、ゲームライター的なこともしたがあまりうまくいかなかったという。筆者が接点を持ったのはここ数年なので、あくまで青井さんの言でしかない。
「編集部ではバイトで、ライターでも無記名のゲーム紹介記事をやっただけ、自分の名前なんてどこにも載りませんでした。つまり名無しの一般人です。有名人だったら騒ぎになって、一生そのこと言われるじゃないですか。ニッチな世界で知られていても揶揄されたでしょう。でも自分みたいなその辺の人なら和解で終わりです」
一見、小太りで柔和な笑みだが、当時の青井さんは負けん気が強かったそうだ。しかし編集部では笑いものだったという。確かに新入りバイトが有名クリエイターや人気ゲームを批判しても理解は得られにくいだろう。短い業界体験、青井さん曰く「挫折」した。
「だからネット掲示板だったわけです。匿名掲示板は平等です。誰が言ったか、ではなく何を言ったか、がすべてですから」
誰もが自由に言論を手にして、リアルのヒエラルキーと関係なしに自分の意見が受け入れられる――かつてのネット民は青井さんと同様、匿名掲示板に期待した。