「多くはこうして和解だと思います。おかしな人でもない限り、これで二度とやらないでしょうし、自分もそうでした」
こうして青井さんは正式な裁判に持ち込まれずに済んだ。その後、相手の少女はもちろん、他にも同じような誹謗中傷行為はしていないのか。
「してませんね。もう年ですから。それに結婚もしましたし、いまの仕事も長いです。家庭あるんで」
誹謗中傷をした本人は結婚して平穏に暮らし、された側は引退して行方知れず。青井さんの話では、そのグラドルにはリスカ、手首を傷つけた跡もあったという。自分のせいではない、元から病ンドルだったと語るが釈然としない。奥さんは知っているのか。
「知ってます。妻もネット好きだしオタク同士で価値観も一緒です。もうバカなことすんなよ、とは言われてますが」
今日一番嬉しそうな笑顔、地獄のような「子ども社会人」だった青井さんを救ったのは奥さんだ。微笑ましい限りだが、それでもやはり釈然としないことを告げる。すると青井さんは顔をしかめ、改まって言葉を繋いだ。
「仕事に影響があったならかわいそうですけど、もう和解しましたし、昔の話ですから」
彼を責めることが目的ではないが、少女の性格や仕事ぶりの「あることないこと」をネットに撒き散らした青井さんは偽計業務妨害罪でもおかしくない。元アイドルのラーメン店経営者に対して「反社とつながっている」と風説の流布を繰り返した50代の男もまさにそれだった。誹謗中傷には仕事に影響を与えるような妨害行為も多い。こいつは使うな、こいつはこういう奴だと取引先や媒体に匿名で連絡する。歪んだ正義と嫉妬、心理学では「引き下げ心理」とも呼ばれる。
「それはあるかもしれません。あのころ、なにもかもうまくいかなかった男で、ゲームと少女だけが拠り所でしたから」
素直に認める青井さんだが、これも過去と割り切れているからこそ。理解ある奥さんもいて平穏に暮らしている。しかし被害者は割り切れていないかもしれない。やったほうは忘れても、やられたほうは忘れない。それでも青井さんの言うところの「その辺の一般人」である限りキャンセルカルチャーの心配はないし、青井さんの現在の仕事は具体的には書かないが万年人手不足の仕事でコロナ禍もあり、まずクビにはならない不人気職とのこと。このように誹謗中傷側から話を聞くとやったもん勝ち、本当に解決策はないのではと思わされる。あえて聞くが、かつての誹謗中傷者として、どうすれば誹謗中傷が無くなると思うか。
「絶対に無くならないと思いますよ。実名制にしてもやる人はやるし、ネットってその辺の一般人最強ですから」