「素敵だな、と思いました」
「真面目なやっちゃんに合わせて、台本のマリコも寄っていったのでは」
2004年(第5シーズン)から“バディ”を組む刑事・土門薫を演じる内藤剛志(66)はそう話す。
映画版の撮影では、沢口の仕事への誠実さに改めて驚かされたという。
「作中では、それぞれのシーンに何時何分という設定があります。今回、屋上でマリコと土門が話す場面を上空からドローンで撮影する時、やっちゃんは『すみません、ここは何時ですか?』と聞いて、自分の腕時計の時間を調整していた。私は『いやいや、絶対見えへんやんか!』って思ったんです。それで気付いたんですが、彼女は全てのシーンでそれをやっていた。自分が演じている時間が何時か、13時34分なら13時34分の気持ちで演じることを自分に叩き込んでいるのでしょう。素敵だな、と思いました」
科捜研ではホワイトボードが頻繁に登場するが、その場面にも“沢口らしさ”が表われるという。
「やっちゃんは、お習字の先生になろうと考えていたくらい字が綺麗。ドラマでもホワイトボードに書くマリコの字はすごく綺麗で丁寧です。それを見るにつけ、彼女が生きていることと演じていることがイコールなんだと感じます」(内藤)
実は2人の初共演は1989年のNHKドラマ『その人の名を知らず』での兄妹役で、30年来の仲だ。
「局のリハーサル室に入ってパッと見たら、一番奥に座っていて、『これが本物の沢口靖子か、ありえない美しさだ』と思いました。監督からは『お前ら兄妹だけど似てないな。共通点は人間だけだな』って言われて。いや、あんたが決めたんだろって(笑)。それから共演するうちに、『やっちゃん』と呼ぶようになりました。もう科捜研では打ち合わせはしません。そのままマリコと土門として演技に入れるんです」
「唯一無二の天使だった」
沢口といえばもう1つ忘れてはいけない作品がある。1985年4月より放送されたNHK連続テレビ小説『澪つくし』だ。
千葉県銚子を舞台に、老舗醤油屋の妾の娘(かをる)と網元の息子(惣吉)の身分違いの恋を描いた純愛ドラマ。デビュー間もない沢口が主役に大抜擢され、平均視聴率44.3%、最高視聴率55.3%を記録。これは1980年代の朝ドラ史上、『おしん』に次ぐ高視聴率である。同作の脚本家、ジェームス三木氏が語る。
「『澪つくし』が成功した理由は、ズバリ主演の沢口靖子さんにある。それ以前は映画『刑事物語3』に出ただけで、主演も連ドラ出演もなかった。僕はたまたま映画を見て、『この娘はいい』と直感しました。演技はイマイチでしたが(笑)、それを吹き飛ばす魅力がありました。
撮影中は苦労も多かった。彼女は関西出身だから、どうしても関西訛りが出てしまう。そのことを現場で指摘されては、毎日泣いていた。標準語を習得するため、家族に電話するのも会うことも許されなかったそうです」