厚労省人口動態調査(2021年)によると、2019年の浴槽内での溺死者は約4900人。約10年間で1.5倍ほどに増加しているという。また、主に11~4月の冬季にこうした事故が多発しているとも指摘されている。
浴室死は「死後」にも多大な問題を残す。遺族や発見者にトラウマを植え付けるのだ。遺品整理人として、多くの死の現場を見てきた小島美羽氏が語る。
「浴室で孤独死された方の現場を何度も目撃しましたが、酸鼻を極めます。浴槽内で死んだ場合、遺体はお湯の中に長時間浸かったままになり時間の経過とともにふやけていく。肉がズルッと落ちてしまう場合があります。私が現場に行く際、ご遺体はすでに警察に運び出されていることが多いですが、浴槽内には遺体の皮膚や肉片、髪の毛のついた頭皮などがそのまま残っていることも珍しくありません」
鑑識の現場では、赤色に変わりガスで膨れあがる水死体を隠語で「赤鬼」と呼んでいるという。入浴と健康の関係を研究する東京都市大学人間科学部教授で医師の早坂信哉氏もこう言う。
「浴槽内で亡くなると発見が遅れて凄惨な状態で見つかることが多い。特に追い炊きが延々と続くタイプの浴槽で死亡すると、遺体が煮込まれてしまう。以前、そうした遺体の写真を法医学の先生から見せてもらいましたが、ドロドロに溶けており衝撃的でした」
孤独死ではなく、同居人がいるケースでも遺体の損傷は進む。消費者庁が浴室での事故死について注意喚起した資料(2020年11月19日)の中には、こんな事例が掲載されている。
〈入浴して20分後くらいに様子を見に行くと浴槽内で意識が無かった。手動による追い炊き式の風呂釜であり、お湯はかなり熱い状態であった。顔面・前胸部・背部・臀部・大腿部後面にII度の深熱傷があった〉(令和元年12月、80歳代女性、死亡)