ドラマ『日本沈没―希望のひと―』(TBS系、以下『希望のひと』)は、ほぼ全話で視聴率15%を超える好調ぶりを維持したまま最終回を迎えた。
たびたび映像化されている小松左京の氏の小説『日本沈没』には、“幻の映画化企画”が存在した。阪神・淡路大震災の直後から、東宝が『新日本沈没』、松竹が『日本沈没1999』(以下『1999』)の映画化企画を水面下で進めていたのだ。この2つの企画は結局実現しなかったが、当時のシナリオを紐解くと、今回のドラマ版とは異なるリアルが描かれていた。
今回、大森一樹氏が書き上げた『日本沈没1999』の脚本第1稿を入手。物語は、横浜での震度6の巨大地震から始まる。原作小説にもにも登場する地球物理学者・田所博士は、この地震から日本沈没の危険性を察知する。対策に奔走するのは2人の若者。船舶会社に勤める技術者・小野寺俊夫と、国際政治学者のショーン渡だ。そして、1億2000万人の日本国民を海外へ脱出させるため、時の首相・神崎政人が諸外国と交渉する──。『1999』で描かれようとしていた日本の未来とはどんなものだったのだろうか。
(前後編の後編。前編は〈幻の『日本沈没1999』映画化構想 大森一樹氏の脚本が予測していた未来〉)
* * *
移民交渉の描写の白眉は、国連で開かれた「日本救済特別委員会」で、各国代表が移民の受け入れ数を議論するシーンだろう。
世界各国が人口の2%を受け入れる「均等案」に対し、フランス代表が「人口密度を加味すべき」と言えば、カナダは「国土の3分の2が極寒地帯」であることを考慮してほしいと言い、さらには〈優秀な日本技術者が移住するのなら、10%以上でも歓迎〉と言い出す国も。
各国が自国の事情を主張し、交渉は一向にまとまらない。ロシアは混乱に乗じて北方四島返還を申し出るが、北海道で火山活動が活発化し、北側の半分が沈没する……。
そんな中で、当時(1990年代後半)普及し始めたインターネットを通して、日本沈没の情報が一般に漏れてしまう。大森氏は当時、記者会見で「小松原作(1973年)にはインターネットが出てこない」と言及しており、時代を反映した設定だった。
十分な移民受け入れを勝ち取っていない中、国民の混乱を避けるためにどうすべきか。国際政治学者のショーンが「人口の50%」、6000万人の避難先が確保済みだと説明すべきだと主張すると、神崎はこう答える。
〈私が言う。あなたは学者だ、嘘はつけない。ほんとうに嘘がつけるのは、政治家だ〉