大森氏はこう語る。
「そこが映画なんですよね。映画っていうのは、“大嘘”の設定の中で、登場人物の役割が決まっているものです。
神崎首相は、前任の首相が急に退陣して、急遽抜擢された“つなぎの首相”という設定で、俳優は大地康雄さんにしたいとこだわっていた。見捨てられた冴えない首相が一大奮起して政治的手腕を発揮するという。それが映画のシナリオなんです」
大森氏は、同様の設定を国連の委員長・ンバヤにも導入している。頼りない委員長と思われていたンバヤの大演説により、各国が数千万人の移民受け入れを承認するのだ。ンバヤはこう熱弁する。
〈この災厄に対する救援は、私たち人類に対する支援だと考えるべきです〉
〈ゆえに問うなかれ、誰がために弔鐘は鳴るやと、 そは汝がために鳴るなれば〉
「頼りない委員長の思わぬ発言に、日本の国連代表も涙する。このあたりは、小松左京的なヒューマニズムを受け継いだんじゃないかな」(大森氏)
原発直下で海底噴火
だが、物語は終盤で急転直下の展開を迎える。
田所博士が日本列島直下の異常、すなわち地下のマグマが太平洋側から日本海側へ流れ込み、海底火山となって噴火する可能性があることを発見する。それが福井・若狭湾の直下で起これば、真上にある原子力発電所が巻き込まれる──。
この事態に、ショーンはこう意見する。
〈東洋のアトランティスなら同情もあるでしょうが、東洋のチェルノブイリにしてしまったら、世界の支援は得られない〉
危機を脱するべく、もう一人の主人公である潜水艇技師の小野寺が動く。海底深くに潜水艇で潜り、人工的にメタン爆発を起こせば、原発を巻き込んだ複合災害を防ぐことができる。
しかしメタン爆発を起こせば、マントル下降部で急激な変化が起き、日本列島の沈没を早めてしまう。日本人としての選択を迫られた小野寺は愛する女性に別れを告げ、潜水艇で一人、海底へと向かった……。
「やっぱり映画は、時に命をかけてでも守らなければいけないものがある、命より大切なものがある、というテーマを描くものなんです。それがヤクザ映画であれば仁義だった。でも、そんなことを言ったら怒られるのかね、今の時代は」(大森氏)