健康診断や人間ドックで検査を受けて、数値が正常内で問題ないですよと言われたら、誰でも安心するだろう。だが検査で「異常なし」と判定されても、安心できないことがある。
2018年7月、東京・杉並区の医療機関が、区民健康診断の肺がん検診として40代女性の胸部X線検査(レントゲン)を行なったが、「異常なし」として肺がんを見逃し、亡くなったことが報じられた。
この医療機関が過去に肺がん検診を受けた人たちの検査画像を再び確認したところ、44人もの人が改めて精密検査の必要があることが判明した。
「こうした“見落とし”は氷山の一角で、どの医療機関でも起こり得る」と語るのは、医学博士の中原英臣氏だ。
「そもそも胸部X線検査は戦後になって、当時蔓延していた結核を調べるための検査として導入されたものです。
初期の肺がんは1cm程度の大きさですが、X線写真は解像度が低いため、発見するのは難しい。胸部X線検査で見つけられる段階では、ステージIII~IVとかなり進行してしまっているケースがほとんどです。
また、心臓や肋骨と重なる部分では、がんを見つけにくいという問題もあります」
医療事故情報を収集する日本医療機能評価機構の報告では、胸部X線検査による偽陰性(がんがあるにもかかわらず、がんの疑いがあると判定されないこと)率は最大で50%にものぼるというデータがある。
世界的に見ても、がん検診には「胸部X線検査は用いない」というのが常識だという。中原氏は、肺がんの早期発見の方法としてCT検査を推奨する。
「私も中咽頭がんを患って肺に転移した経験がありますが、CTをやってやっと見つけられました。CTならミリ単位のがんも見つけることができます」(中原氏)
同じように「時代遅れ」と指摘されているのが、胃のバリウム検査である。
胸部X線検査と同様にX線写真の解像度が低いため、がんを見落とす可能性が高いと新潟大学医学部名誉教授の岡田正彦医師(内科医)はいう。
「先進国の欧米では、胃がんの患者が少ないため、バリウム検査について詳細に調べた論文はほとんどありません。日本国内でもバリウム検査が有効であることを示すデータも乏しく、検査をすることの根拠が曖昧なのです」