視力アップトレーニングの効果が注目を集めている「ガボールパッチ」。眼科専門医の林田康隆先生にその効果とメカニズムを訊いた。
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ガボールパッチとは、ノーベル物理学賞を受賞した英国の物理学者、デニス・ガボール博士が考案したぼやけた縞模様のことです。元々は視力回復目的のために考案されたものではありませんが、この縞模様をしっかり見ることにより、軽度の近視や老眼の改善に効果があるとの論文が複数発表されています。視覚を刺激する効果が高いとして、2017年には米紙「ニューヨークタイムズ」の記事で紹介され、世界的に知られるようになりました。
では、なぜガボールパッチを見ることによって視力の改善が期待できるのでしょうか。実際のメカニズムは解明されていませんが、実は、ぼやけた縞模様を見るとき、目だけでは判別できないため、脳が情報を補いながら見ようとします。この脳の補完力をわかりやすく説明するために、「脳内視力」と呼びます。
ぼやけた縞模様を見た際に、目でとらえた情報を脳で映像化して認識する「視覚野」が刺激され、脳の画像処理能力を高める、つまりは“脳内視力を高める”ことにつながると言われています。
そもそもこのガボールの縞模様は自然界に溢れ返っています。それは光の干渉波と言われるものです。これは私の持論ですが、人間は大自然の中で生き残るために必死で種を保存してきました。
視覚の発達した人類には如何に外界の情報を正確に見極めるかということがとても大切でした。太陽からの光が降り注いでいるこの地球上の環境下において、光が織りなす色や物の見え方の変化は多彩なものです。その中で今日を生き抜くために視覚を駆使してきた人類にとっては、外界の対象物をどの明るさの環境でも正確に見抜く力が必要であったはずです。
米国・カンザス大学が近視の患者と初期の老眼の患者の計38人を対象に行なった研究によると、ガボールパッチのトレーニングを1回30分、週に2~3回を3か月間実施したグループは全員の視力がアップし、老眼の患者が近くを見る視力は平均0.3上がるという結果が出ています。
人類の長い進化の過程で、現代人の視覚の使い方は一瞬とも言える短期間で大きく変化をしています。生きるために使っていた視覚は、歩きスマホでも分かるように、その使い方が大きく変化を遂げています。脳の視覚野の機能が低下すると、認知機能も低下しますので、ぼやけた縞模様を見て日常的に脳を刺激することは、超高齢化社会の中で、認知症予防にも寄与すると考えられます。