高血圧患者の5人に1人が他に服用している薬の副作用によって症状を悪化させているというデータがある。米ベス・イスラエル・ディーコネス医療センターのティモシー・アンダーソン氏らの研究グループによって発表されたものだが、このデータから試算すると日本でも795万人の高血圧患者が、薬の副作用で症状が悪化している計算になる。
では、どんな薬があなたの血圧を上げてしまっているのか。具体的な薬について、詳しく見ていく。
何気なく使っている目薬に
日本高血圧学会が作成した『高血圧治療ガイドライン(2019年版)』には、「薬剤誘発性高血圧」の項があり、服用することで血圧を上昇させて高血圧を誘発し、降圧剤の効果を減弱する可能性が指摘されている8種の薬が挙げられている。具体的には、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、甘草(カンゾウ)製剤、グルココルチコイド、シクロスポリン、エリスロポエチン、交感神経刺激薬、経口避妊薬、がん分子標的薬の8つだ。
これらの薬のなかから、PMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)のホームページに公開されている医療医薬品の添付文書に「血圧上昇」の副作用記載があるものを抽出し、銀座薬局代表の長澤育弘薬剤師が特に注意すべき医薬品を選んでまとめたのが別掲表である。
トップに挙げられているNSAIDsは、解熱や鎮痛に幅広く使われている薬で、慢性的な痛みを訴える患者が長期服用していることが多いが、高血圧診療においては注意が必要な薬だ。高血圧診療を専門とする坂東ハートクリニックの坂東正章医師が言う。
「高血圧患者が服用することで腎機能低下や胃潰瘍の出現頻度の高さが気がかりです。私がNSAIDsを処方するときは、連続服用ではなく、できるだけ、痛いときだけ服用する頓服使用を勧め、痛みの原因を解消するために、専門医と相談するよう伝えています」
実際、日本高血圧学会も併用について〈高齢者や腎機能障害合併例で大きい傾向がみられるため、当該薬の使用には注意が必要である〉と強い注意喚起をしているが、「併用を見逃しているケースは少なくないと思います」と語るのは、PMDAの審査専門員を務めた経験のある谷本哲也医師(ときわ会常磐病院)だ。
「ひざ関節痛や肩こりなどを訴える患者さんが整形外科で処方され、血圧コントロールが難しくなっていたことがあります。内科と整形外科を同時に受診している高血圧の方は、処方されている薬剤を確認し、医師に相談すべきでしょう。
NSAIDsは特定の降圧剤との飲み合わせで副作用が出ることもある。ARBやACEといった血管に作用する降圧剤と併用すると、降圧剤の効果が弱まるだけでなく、NSAIDsの副作用で血圧がさらに上昇する恐れがある。それを避けるには、NSAIDsの影響が少ないとされるカルシウム拮抗薬という種類の降圧剤に切り替えて対応します」