これまでの変異株と比べても桁違いの感染力を持つオミクロン株。世界各国は感染拡大と戦いつつ「ウィズコロナ」の道を模索しているが、それに抗い「ゼロコロナ」に固執する国がある。冬季北京五輪を目前に控えた中国だ。ジャーナリスト・西谷格氏がレポートする。【前後編の前編】
北京市から高速鉄道でわずか30分の距離に位置する天津市で1月8日、オミクロン感染者を確認。15日には、ついに北京市内でも確認された。しかし、感染拡大までには至らず、北京在住の日本人にはまだ余裕が見られる。
「北京で2人感染者が出て大騒ぎしている時に、日本では2万人突破とニュースが出ていて、世界が違うなあと。感染者の行動履歴がすべて報道されるので、三次感染者まで自宅待機を行なう企業もあります。私の同僚も感染者とすれ違っていた可能性があったため、陰性証明を取得するまで自宅待機していました」
隔離に従わないために逮捕されるケースも日々報じられているが、別の日本人駐在員はこんな感想を口にする。
「どこそこで出たねという会話を中国人の同僚としていますが、北京市外から市内に入る際の検問が非常に厳しいため、“壁の中にいるような安心感”があります。ワクチン接種率も9割を超えており、北京は大丈夫という意識があります」
中国では感染状況に応じて地域ごとのリスクを「低・中・高」に分類。「中・高リスク地域」の住民が高速鉄道や飛行機に乗る際は、国内移動であっても陰性証明の持参が義務付けられている。特に北京への移動は厳しく制限されており、“壁の外”では、北京に感染を広げないために徹底した対策が取られている。
63人の感染者を数えた陝西省西安市は昨年12月23日、ロックダウンを実施。現在もなお、1300万人の市民が外出を制限されている。ゼロコロナ政策の副作用も出ており、ロックダウン直後には食料の配送が滞り、ネット上に助けを求める投稿が一時相次いだ。
元日の夜には妊娠8か月の女性が市内の病院に搬送されたが、陰性証明の有効期限が4時間前に切れていたため、氷点下の屋外で2時間待たされることに。屋外で大量出血し、死産した。心臓発作で病院に搬送された男性は「中リスク地域」に居住するとの理由で治療を拒否され、8時間後に受け入れ先が見つかったものの死亡した。陝西省咸陽市では、自宅隔離を守らなかった住人に対し、自宅ドアを溶接して閉じ込める措置が取られ、批判を招いた。
北京の隣の天津市では、オミクロン株が確認された8日以降、1400万人の全市民を対象にPCR検査を実施。3日間ほどで約1250万人の検査を終え77人の陽性患者を洗い出し、天津から北京に向かう高速鉄道も翌9日から停止させた。
現在少なくとも5つの都市で2000万人以上が外出制限を受けている。すべては北京五輪をゼロコロナで終えるためだ。