新型コロナウイルスの感染拡大第5波が過ぎ去ったあと、夜の街で憂さ晴らしをする生活に戻った人たちがいた。かつて週末の夜の街では当たり前の光景だったのではと思いたくなるが、多人数で距離が近い状態を長時間、居続けるのを避けたい今では、たとえ流行ピークが過ぎていても皆が作らないようにしてきた場面だろう。ライターの森鷹久氏が、居酒屋難民となり列をつくってでも以前と同じ夜の憂さ晴らしを復活させたい人たちについてレポートする。
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新型コロナウイルスの新規感染者が急増していた2022年1月、東京・六本木の繁華街──。
筆者が六本木の交差点を歩いていると、若い女性がひっくり返っていた。よく見ると、胸元には吐いた跡らしきものが確認され、ぐったりとした顔は血の気がなく真っ白。その傍らには、そんな女性を見てゲラゲラ笑っている男女が二人。どうやら、近くの居酒屋でしこたま酒を飲み、女性が潰れてしまったらしかった。すぐ向かいにある交番から警察官が二人やってきたが収拾がつかず、間も無く救急車が到着した。
時刻はちょうど午前0時を周り、終電がなくたったタイミングだ。これを「新年会シーズンの光景」と言えば確かにそうなのだが、今回はそれだけが理由ではない。2021年の第5波が過ぎ新型コロナの新規感染者数が急減してから、街に繰り出し始めた人たちによる賑わいだ。付近の居酒屋店主・内藤大司さん(仮名・50代)が打ち明ける。
「2021年の冬から、ナイトクラブや居酒屋など、以前と何ら変わりない感じで営業する店が増えたんです。私の店を含む多くの店は、都の要請を守っていましたけどね。六本木にやってくる客はどんどん増えたんです」(内藤さん)
とはいえ、深夜まで営業している店は限られているし、営業していたとしてもどの店も満席で大いに「密」状態。二軒目三軒目を目指す酔客達が、まさに「居酒屋難民」となり、街にあふれかえっていたのだという。
筆者が六本木を訪れた1月の別のある夜も、営業している居酒屋や飲食店の前に行列ができていたし、行き場を失った酔客が、コンビニの前や駐車場などで缶ビールや缶チューハイを煽る姿を、あちこちで目撃した。そんな客を目当てに、午前0時を過ぎても営業を続ける店が増えたのだと説明する。
また、六本木の牛丼店の前を通りかかると、赤色灯をつけたパトカーが止まっていた。何か事件でも起きたかと様子を伺うと、例の「居酒屋難民」と思われる何人もの客達が店にやってきて、注文した牛丼を目の前に、卓上で寝落ちしていたのである。その人数があまりにも多すぎて対応できないと牛丼店店員が通報した、というのがことの成り行きだったようだ。