選手たちに落選の一報を告げた上村監督(写真・共同通信社)

選手たちに落選の一報を告げた上村監督(写真・共同通信社)

「個人の力量」って、何ですか?

 昨年10月下旬から11月上旬の週末に行われた東海大会において、静岡大会2位の聖隷クリストファーは、1回戦で津田学園(三重3位)に11対4と大勝し、2回戦の中京(岐阜1位)戦では1対3とリードされた9回表に3点をあげて逆転勝利。さらに至学館(愛知2位)との準決勝でも5対8の9回裏に4点をあげてサヨナラ勝利した。

 決勝では同じ静岡県の日大三島(静岡1位)と対戦し、2点を先制したものの逆転を許し、3対6と敗れた。大会前に正捕手が左手を骨折し、エースで主将の弓達寛之が1回戦後にヒジの痛みを訴え、その後の試合で登板できなかったことを考えれば、総合力で大躍進する見事な準優勝だった。

 一方、77歳になる名将・阪口慶三監督率いる大垣日大は、1回戦で静岡(静岡3位)に7対2で勝利し、続く2回戦では愛知大会王者の享栄を3対2で破った。しかし、準決勝の日大三島戦では満塁本塁打を浴びるなどして、5対10で敗れている。

 東海地区の選考委員長である鬼嶋一司氏は、選考委員会総会や総会後の取材対応でこう話している。

「(聖隷クリストファーは)頭とハートを使う高校生らしい野球で、2回戦、準決勝で9回に見事な逆転劇をみせた。立派な戦いぶりでした」
「個人の力量に勝る大垣日大か、粘り強さの聖隷クリストファーかで賛否が分かれましたが、投打に勝る大垣日大を推薦校とします」
「特に投手力で差があった。春の選抜大会では失点の多いチームは厳しい。甲子園で勝つ可能性が高いのはどちらか。それを基準に判断した」
「(静岡から2校が選ばれるという地域性については)考慮していない」

 つまり、個人の能力で勝り、投手力のある大垣日大のほうが甲子園で勝つ可能性が高いと判断したのだ。言うまでもなく野球は団体スポーツだが、ケガ人が続出しながら、全員野球で勝ち上がった聖隷クリストファーのチームの力は評価されなかったかたちだ。

 両校の東海大会のおける戦績を比較しても、鬼嶋氏の東海大会の結果で下回る大垣日大を選出した理由は腑に落ちない。まして、聖隷クリストファーは大垣日大が岐阜大会決勝で0対2と完封負けを喫している中京にも勝利しているのだ。

「準優勝した聖隷クリストファーを不選出にする理由として、『個人の力量の差』を指摘された。個人の力量とは何でしょうか。体格が良いことでしょうか。140キロのボールを投げられるということでしょうか。そうした能力はあっても試合で発揮できない子や、身体能力は高くなくても、ここ一番に強い子っていますよね。私も高校野球の解説を任されることがあります。試合前に戦績や投手の球速などのデータを見て、こっちのほうが強いかなと予想を立てたとしても、それを裏切ってくれるのが高校野球じゃないですか。

 聖隷クリストファーは、たとえ能力がなくても試合で強い選手を育て、甲子園を目指し、その権利に手が届きかけた。それなのに、個人の能力の差を理由に落とされたら、今後、どうやって甲子園を目指せばいいのでしょうか」

 上村監督からしたら、自身が育てた選手たちを侮辱されたも同然の気分だろう。オミクロン株の感染拡大を受け、上村監督は学校長として、全部活動に自粛を呼びかけていた。しかし、センバツ出場が濃厚だった野球部と、大会の近い部活動などは通常の練習を続けていた。落選を受けて野球部は今、全体練習を自粛し、個人練習が続いている。

 そして、上村監督が思い悩む日々は、今もまだ続いている。

後編につづく

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