現在の日本外交が問われるのは膨張する中国への姿勢だ。果たして岸田文雄・首相は、中国に毅然ともの申せるのか。歴代政権を見続けてきた田原総一朗氏と、安倍政権で内閣官房参与を務めた藤井聡・京都大学大学院教授が激論を交わした。【全3回の第3回】
田原:高市(早苗)さんの主張は正論だと思いますよ。いつまでアメリカの言いなりなのか、日本は主体性を持つべきだというのは正論。
藤井:アメリカとの関係から言えば、現在の台湾有事のリスクが高まっている状況は、日本が主体性を取り戻すうえで有利とも言えます。田原さんがおっしゃったように、バイデンは最初の首脳会談の相手に日本を選んだ。アメリカ一国では中国と対峙できないという認識を持ち始めている。そんなときに、相変わらずアメリカにおんぶに抱っこで守ってもらおうという姿勢を見せれば、永遠にアメリカに隷属することになります。
田原:私は安倍(晋三)さんが2018年に憲法改正を掲げたときに、自民党幹部らに取材したところ、改正できると自信を持っている人はほとんどいなかった。だから、安倍さんに憲法改正の前に日米地位協定を改正すべきだと提言したんですね。そうしないと沖縄問題もケリがつかないと。
藤井:在日米軍基地を認める地位協定と、「戦力不保持」「交戦権放棄」を定めた憲法9条、軍事同盟の安保条約は表裏一体で、日本は軍隊を持たないかわりに米軍に守ってもらうという建て前になっているわけですが、変えやすいのはどこかと言えば、やはり地位協定です。地位協定を国際常識に近い形に変えられれば、日米の対等化への布石となり、かつ、憲法9条の改正にもつながっていきます。
田原:岸田さんもそうした論には賛成していますよ。地位協定があるために、沖縄米軍基地の兵士の入出国管理や感染者の隔離ができなかったため、沖縄で新型コロナの感染が拡大したといわれていて、批判が高まっている。今は地位協定を改正するチャンスです。
5月に岸田・バイデンの首脳会談が予定されていますが、その前に日中間の交渉が始まり、岸田・習近平会談が実現する可能性がある。これに成功すれば台湾有事は避けられ、その成果をもってバイデンと地位協定見直しの交渉ができる。
藤井:そんなにうまくいきますかね。
田原:岸田政権では、中国と具体的に何を交渉するかの議論が始まっていて、私は近く、二階(俊博・元幹事長)さんと話したいと思っている。
藤井:中国に台湾侵攻を控えさせるほどの強いカードを日本が持っているとは思えないのですが。
田原:いや、持っています。今はまだ話せませんが。
藤井:自衛隊を増強するとか、防衛出動を可能にするといった方向で圧力をかける?
田原:もっと大きなカードです。
藤井:う~ん。田原さんは北京五輪後の日中交渉で台湾有事の危機は回避できると考えているんですね。