最近、『あらびき団』(TBS系)をはじめとした深夜番組がゴールデンに進出する動きが相次いでいる。好調な深夜番組が昇格することは過去にもあったが、これまでとは異なる背景があるようだ。コラムニストでテレビ解説者の木村隆志さんが解説する。
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12日19時、『あらびき団』が番組開始から15年目で初めてゴールデンタイムで放送されます。『あらびき団』は、“あら削り”な一芸を持ったパフォーマーを集めたネタ番組であり、これまでハリウッドザコシショウさん、世界のナベアツさん、AMEMIYAさん、はるな愛さん、風船太郎さんなど、多くの番組発スターを輩出しました。
ゴールデン特番の放送が発表されたとき、ネット上に喜びとともにあがっていたのは、「なぜ今?」という驚きの声。ただ、実は現在ゴールデンタイムで大活躍中のかまいたち、シソンヌ、マヂカルラブリーなどの賞レース王者が若手時代に出演していたことで、このところ『あらびき団』を再評価する声が高まっていました。
しかし、深夜番組のゴールデン・プライムタイム昇格と再評価は、『あらびき団』だけではありません。
昨秋、2004年からほぼ深夜番組として放送され続けてきた『くりぃむ』シリーズの新ブランド『くりぃむナンタラ』(テレビ朝日系)が日曜21時55分からの30分番組としてスタートしました。さらに今春から早くも1時間番組に拡大放送することが発表されています。
また、正式発表こそまだではあるものの、『月曜から夜ふかし』(日本テレビ系)も、今春に約2時間早めた22時からの放送になることを複数メディアが報じています。
今春は『トークィーンズ』(フジテレビ系)や『上田と女が吠える夜』(日本テレビ系)などの「深夜帯にパイロット版として放送した番組がゴールデン・プライムタイムでの特番を経てレギュラー化」という定番の編成も見られます。しかし、前述した3番組の変化は、明らかにこれまでとは異なるものであり、どんな背景や狙いがあるのでしょうか。
視聴者から不安視もメリット大
『あらびき団』、『くりぃむ』シリーズ、『月曜から夜ふかし』の共通点は、「長年にわたる安定した人気」「お笑い純度の高いバラエティ」「深夜番組らしいローコスト制作も可能」の3点。新番組を試すより、既存番組を有効活用する形で勝負しようという編成戦略がうかがえます。
また、もともとコアなファン層に向けたコンセプトの番組だったことから「世帯視聴率が獲りづらい」と見なされて、ゴールデン・プライムタイムでの放送を控えていました。しかし、2020年春の視聴率調査リニューアルで、主にコア層(13~49歳)の個人視聴率が獲れる番組が求められるなど、バラエティの評価指標が激変。なかでも「最もニーズが高いお笑い純度の高い番組を再評価し、有効活用していこう」という動きが各局で見られるのです。
3番組はいずれも、企画や演出が視聴者から支持されてきた歴史があるため、コア層(13~49歳)のなかでも、「2層(35~49歳)の個人視聴率を安定して得る」ことが可能。さらに、お笑い純度の高さから、「T層(13~19歳)と1層(20~34歳)の個人視聴率を新たに得られるのではないか」という狙いがあるのです。
ただ、深夜番組をゴールデン・プライムタイムに昇格すると、視聴者たちから「表現の幅が狭くなるのはないか」「無難な番組に変わってしまいそう」などと不安視されてしまうのも事実。そんなリスクはあっても勝負するのは、やはり期待できるメリットのほうが大きいからでしょう。
業界内には、「深夜番組の自由さは、SNSを絡めて盛り上がる令和の時代にフィットしやすい」という考え方もあります。たとえば、コア層からの圧倒的な支持を誇る『水曜日のダウンタウン』(TBS系)が、自由度の高い企画をランダムに放送して、ツイッターのトレンドランキングをにぎわせていることからも、それがわかるのではないでしょうか。