かつて常にマスクをしている人というと、花粉症の人や風邪を引いているひとをのぞけば、見つかりたくない有名人、暴れるときの不良、振り込め詐欺の受け子や出し子など顔を覚えられたくない、見られたくない人というのが相場だった。ところが2020年以降は、新型コロナウイルスの感染拡大によって呼びかけられた新しい生活様式が広まったことで、真夏でもマスク姿が奇異なものではなくなった。その新標準を悪用して経済的に困窮する女性に、違法動画出演の勧誘をする人たちが存在する。ライターの森鷹久氏が、マスク着用動画出演で苦しめられる女性についてレポートする。
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「コロナ禍」と言われ続けて、早2年が経過しようとしている。これまでの日常は大きく変わり、外出の際のマスク着用もほとんどの人が「常識」と捉え、マスクをすることに、他人がマスクを着用していることに違和感を持つことは無くなった。しかし、この「マスク」が思わぬところに負の影響を及ぼしているという。
「マスクのおかげで、出演へのハードルはグンと下がっているようです。それだけで済むならいいが、深刻な人権侵害も起きている」
成人向けビデオ制作会社幹部・吉岡大輔さん(仮名・40代)が「人権侵害」が起きていると指摘するのは、ウェブ上の成人向けサイトで閲覧が可能な映像制作で発生しているトラブルについてだ。
「マスクをしていれば誰かわからない、そんな制作者の誘惑に乗せられ、出演する女性がコロナ禍以降、本当に増えているんです。実際、マスクをしっかり着用していれば、親やかなり親しい友人でなければ出演していることは気づかれにくい。だからか、マスク系の映像は今なお数多く供給されている」(吉岡さん)
吉岡さんが「マスク系の映像」と言っているのは、最初から最後まで、どんな服装になろうともマスクを着用したままの映像作品のことだ。かつてなら、そんな不自然なものは受け入れられなかったかもしれないが、コロナ対策で常にマスク着用となったいま、道行く女性に声をかけるときはもちろん、部屋で話をするときにマスクをしたままでも受け入れられるようになった。かえって、作り物ではない感じがすると受け取れられている面もあるのかもしれない。
これらの映像のほとんどは、海外にサーバーを置く日本人向けの映像サイト上で販売されているが、その多くは、吉岡さんのようなプロによって作られたものではない。ほとんどは、素人同然の人物が家庭用ビデオカメラやスマートフォンなどを用いて撮影したもので、サイトを通じて制作者からユーザーに販売されている。そして、この数年、こうした映像の中に法に触れるものがあったとして、制作者や出演者が逮捕される事例も相次いでいる。