手嶋:米中衝突の結果、重要な産業分野でデカップリングが進んでいる。それを受けて日本は、経済安全保障の法制化を進めています。半導体や通信機器など、日本のハイテク技術を奪われてはならないと、原案では懲役2年という厳罰も設けている。このままでは自由な経済活動が阻害され、経産省に業界の規制・監督という武器を与える懸念がある。現実にハイブリッド化した製品の非中国化などそんなに簡単じゃありません。
富坂:非常に頭の痛い問題です。ビジネスの現場の担当者は、自社製品をどう扱えばいいかわからず、頭を抱えている。
問題はそれだけに留まりません。技術の流出を防ぐという流れは段階的に進んでいて、アメリカでは1998年にコックス報告書が出て、宇宙に関する技術を中国には一切出さないとした。その中国の宇宙開発の部署がコロナ禍の間に、月の裏側から土を持ち帰ってきた。こういう技術進歩は、止めても止まらないのです。
手嶋:止めたことで逆に相手側に加速度がつくこともある。中国はいまや「海洋・宇宙強国」を目指している。2016年に量子科学衛星「墨子」を打ち上げ、量子暗号の通信技術では日米を凌いでいます。日米はまだ量子科学衛星を打ち上げておらず、この分野では中国の後塵を拝してしまっている。
富坂:あのときアメリカが流出を止めなければ、今でも中国の衛星技術のいくつかはアメリカに依存したままだったと思います。しかし、止めたことで独自技術に置き換わり、中国の技術が見えなくなってしまった。
手嶋:デカップリングは恐ろしい事態を招きます。
TPPに中国を入れる
富坂:中国のアキレス腱というのは、先ほども述べた通り国内問題です。だから返り血を浴びてでも、短期的な利益よりも長期的な人口が増えるほうがいいという判断をした。今のところ効果は表われていませんが、少なくとも何が問題かは見えていて、対処はしている。薬が効いていないが、薬を処方しているということをどう見るかではないでしょうか。
手嶋:一方の岸田内閣は「新しい資本主義」の中身が一向に見えてこない。少子化という同じ悩みを抱える日本がどこで中国と連携し、どこで一線を画するのか。米中の狭間に位置する戦略上の利点を生かす度胸と器量が問われている。
富坂:反発は大きいでしょうが、TPP(環太平洋パートナーシップ)に中国を入れてしまうのも手でしょう。米中両国からのプレッシャーを、第三者的な機関の約束事の中で消化していく。