現在公開中のKing&Princeの永瀬廉(23才)が主演を務めた映画『真夜中乙女戦争』。公開が開始すると、初日から3日間で観客動員数8万2000人を記録し、興行収入は1億1300万円という好スタートを切った。本作において、どこにでもいるような等身大の若者を演じているのが1年半ぶりに主演を務めた永瀬だ。映画や演劇に詳しいライターの折田侑駿さんは、「表現の幅を広げ、大きな成長を遂げている」と語る。
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本作は、若者を中心に支持を集める作家・Fによる同名小説を、映画『チワワちゃん』や『とんかつDJアゲ太郎』などを手掛けた映画作家・二宮健監督(30才)が映画化したもの。主演に永瀬、共演に池田エライザ(25才)、柄本佑(35才)らを据え、二宮監督らしいスタイリッシュな映像美と俳優たちの演技のかけ算により、驚きのクライマックスとともに儚く切ない物語に仕上がっている。
物語のあらすじはこうだ。東京で一人暮らしをする大学生の“私”(永瀬廉)は、友人も恋人もおらず、目標も目的もない鬱屈とした日々を送っていた。そんなある日、「かくれんぼ同好会」というサークルで出会った不思議な魅力を放つ“先輩”と、不意に現れた謎の男・“黒服”の存在によって、彼の無気力な日常は一変する。“先輩”との距離は日に日に近づき、カリスマ的存在の“黒服”に導かれて悪戯に耽る魅惑的な毎日だ。ところが、“黒服”と彼に共鳴する者たちの言動が過激化し、やがて東京を破壊するという“真夜中乙女戦争”が始動。“私”は世間を騒がす事態に巻き込まれていく。
この奇想天外な物語を推進させるのが、池田扮する“先輩”と柄本扮する“黒服”の存在だ。映画『SUNNY 強い気持ち・強い愛』や『映画 賭ケグルイ』でカリスマ的な人物を演じてきた池田が“先輩”をミステリアスに演じ、町医者から仮面ライダーまで多彩に演じ分ける柄本が危険なオーラを放つ“黒服”を怪しくも魅力的に演じている。“先輩”も“黒服”もどちらも掴みどころのない人物で、自己形成の途上にある未熟な“私”を翻弄。この両者に翻弄されていくさまを、主演の永瀬は見事に演じ上げているのだ。
永瀬が演じる“私”とは、将来への不安と現状への不満を抱える若者。「すべてを壊したい」という願望はあるものの、かといって彼自身の主体性は薄く、ただネガティブなエネルギーに満ちているばかり。だからこそ彼は、“先輩”や“黒服”というどこか得体の知れない存在に引き寄せられ、翻弄されることにもなるのだ。物語序盤での永瀬の顔には表情という表情が終始見られず、声も抑揚を欠いている。諦念を抱き、日々を前向きに生きることのできない退廃的な若者の孤独を、永瀬は体現しているのだ。思考も言動も閉鎖的なため、ゆえに危険で脆い。成長過程にある若者の多くを象徴するようなキャラクターが印象的である。