SNSの醍醐味の一つに、同じ趣味や関心を持つ人たちが世代や国境を越えて集えることがある。今では自動翻訳機能が向上したこともあり、言葉の壁も越えてさらに交流を広めやすくなった。Facebookで愛犬をきっかけに交流を持つ人たちが、ロシアのウクライナ侵攻をめぐってSNSでも争うようになってしまった。その怒りと戸惑いと混乱を、俳人で著作家の日野百草氏がレポートする。
* * *
ずっとのどかなFacebookだった。愛犬を語り合い、褒め合い、その良さを語る。筆者のFacebookはもう何年も前、愛犬であるペキニーズ(犬種)のためにつながったものだった。1200人ほどいるフレンドの大半は海外のペキニーズ飼いやブリーダーといった愛犬家である。Facebookにありがちなマウントをとることもなく、「好き」を語り合う場所だった。
しかし2月25日、その平穏なコミュニティは一転した。
「迅速な対応ありがとう友達! 一緒に勝利へ!」
2月25日、筆者のFacebookでも戦争は始まっていた。Messengerにはこうした感謝のメッセージがウクライナから次々に届いた。キエフのオレクサンドル・パノフからは英語で「ご支援に感謝!」とコメントがついた。「迅速な対応」「ご支援」というのは筆者が愛犬とのプロフィールにウクライナ旗を掲げたことに対してだ。
「ようこそ出口へ、話しましょう!」
筆者のプロフィール写真のウクライナ旗を見たのだろう、Messengerにはロシア人ペキニーズ飼いからのメッセージも届き始めた。こちらはベラルーシの首都ミンスクから。筆者がウクライナ国旗を掲げて以降、ロシア本国はもちろんモルドバに住むロシア人からも「ロシアは平和のために戦う、悪いのはゼレンスキー、誤解しないで」と送られてくる。聞けば「出口」とは「ロシアを悪者にする陰謀から目覚めるための出口」とのこと。
ところでこのペキニーズという犬種の愛好家、なぜかウクライナ人が多い。ウクライナ人はペキニーズ好きが多いのかわからないが圧倒的に多い。負けずにロシアのペキニーズ飼いも多い。本当にたまたまだが、ペキニーズ友達にウクライナ人とロシア人が多かったがために、筆者のFacebook上もまたペキニーズ飼いを中心とした愛犬家たちによる代理戦争の戦場と化していた。本稿の翻訳はあえて原文を直訳した形をとる。意訳するとありのままが伝わらないとの考えである。
「ウクライナに栄光を、侵略者に地獄を」
キエフのマリア・アルフェロワもまたウクライナ国旗を模したハートのスタンプを送ってきた。プーチンをシュレッダーにかけるバンクシー風の風刺画とともに。筆者がタイトル写真としたウクライナの象徴、聖アンドリーイ教会にも「いいね」がつきはじめた。