X社やその代表は、なぜ、著名人や経営者などに謝礼ありのインタビューや対談をもちかけてホームページに掲載しているのか。前出の業界紙記者は、インタビューや対談相手に興味などまったくなく、自身を大きく見せて信用させるために行なっているに過ぎないと断言する。
「要は箔付けのためですよ。広く投資を募ったあげく、配当金を出資者に払わないと問題になった事業会社が過去にもいくつかありましたよね。そのうちのいくつかは、有名人に高額ギャラを支払い、広告塔に仕立てていたことで信用を得ようとしており、大きく報道された事例もあった、それらと同じですよ。過去の事件では、広告塔の有名人の活用は新聞や雑誌の広告や広告記事への出演でしたが、今はネットです。ネットだと、紙媒体の広告に比べ、それほど間をかけずに体裁を整えられますし、元手をかけずに信頼できる会社のイメージを作り上げやすいので、勧誘する道具として使う。
X社の悪評は今も広がっていますが、被害を訴える人が近くにいるとか、もともと消費者問題などに関心が高い人など、まだ限られた人たちの間での情報交換が中心であって、無関心な人には届いていない。X社が狙っているのはそういう人たちなので、このままだと大きな騒動に発展するかもしれませんよ」(増田さん)
タレントAも飲食店経営者の増田氏も、気が付いただけまだマシだったのかもしれない。まるでX社の事業を賞賛しているかのような内容のインタビュー記事が掲載されてしまった件については、二人とも関係者にその都度、釈明を行なっているという。だが、X社のホームページに掲載されている他の多くの有名人、文化人は、自分が一方的に利用されたことをまだ知らないようだ。
「脇が甘い」と言われれば確かにそうなのかもしれないが、こうした手法は年々より巧妙化し、一見するだけでは判別が難しくなっているという実態もある。このX社に限らず、の事かもしれないが、このようにタレントや著名人を取り込もう、利用しようという人々が徹底して行うのが「逆SEO」と言われる行為だ。例えばX社についての悪評は、SNSやブログなどを中心に拡散してはいるものの、それを上回る勢いで、X社に関する良い書き込み、無害な書き込みが毎日、いや数時間ごとに行われている。これは、X社のスタッフや関係者が、悪評をかき消すために行っているとみられるもので、要は検索の妨害だ。X社を称賛するためだけに作られたSNSアカウントやブログは10や20ではなく、数百単位で散見され、日々何らかの更新がなされている。
だから、タレントAや増田さんが、X社にオファーを受け取った段階でX社のことを多少ネットで調べたとしても、その悪評に辿り着くことは非常に難しい。そのまま知らずにオファーを快諾してしまうと、X社の悪評を知っている人々から「わかってやっているのか」と非難を浴びてしまう事になる。
今回の件が本当に「大きな騒動」に発展すれば、彼ら、彼女らの社会的信用は地に落ちてしまう可能性もある。
万一、そうした騒動に巻き込まれた時「気が付かなかった」「知らなかった」という釈明だけでは、火に油を注ぐ結果となってしまう場合だってあるだろう。しかし、前述したようにいちいち取引先など相手方の詳細を調査する、というのも現実的でなくなっているのも確かだ。「信用」を保つためのコストが高騰する未来がやってくるのかもしれない。