鹿児島本土から約380キロの「奄美大島」から、3月18日に開幕したセンバツ甲子園の切符を勝ち取ったのが鹿児島県立大島高校だ。練習時間や移動距離などで離島は不利だと思われがちだが、本来ならハンデとなる環境が、むしろアドバンテージに変わることもあるという。ノンフィクションライターの柳川悠二氏がリポートする。【前後編の後編。前編から読む】
「フェリーのチャーター」を断念
大島高校の正門を抜けると、すぐに「甲子園事務局」と看板に書かれた教室があった。ちょうど、老齢の男性が地元TV局のインタビューを受けていた。121年の歴史がある同校の同窓会組織である「安陵会」の丸田卯禮男会長だった。
「寄付金や甲子園応援の問い合わせが多く、この教室に電話線を引いて事務局としているんです」
教室には熊本西や松山東といった近年、甲子園に出場した学校の応援グッズが並べられていた。複数のスポーツ用品メーカーからサンプルが届いており、予算と相談しながら今回のグッズを選定している途中だという。
離島の応援団は、移動も大がかりだ。フェリー移動となれば、試合前夜に12時間をかけて鹿児島まで行き、そこから新幹線で大阪へ。万が一、雨で順延となっても、奄美に戻るわけにはいかず大混乱となる。ゆえに、82歳になる丸田会長は様々な案を巡らせていた。
「大型のフェリーをチャーターして、奄美から大阪の港に寄港する。順延や、勝ち上がって滞在が増えるようなら、停泊したフェリー内で寝泊まりすればいい。他のお客様もいないので、コロナ感染のリスクも避けられる。しかし、組み合わせ抽選から試合の日まで2週間ちょっとしかない。フェリーをチャーターするには一か月前には予約しないと難しいということで、断念しました」
離島の野球部が負うハンデは多い。
塗木哲哉監督は毎年夏、新チームが発足直後の8月に鹿児島市内で10日間ほどの合宿を行うが、それには理由がある。鹿児島県大会に出場するとなれば、最大で2週間ほど、選手はホテル暮らしを強いられる。自宅から通っている球児が多い同校では、まず部員が共同生活に慣れることが甲子園への第一歩なのだ。
「島の子供ですから、初めて訪れた場所ではキョロキョロしながらあっちへ行き、こっちへ行きと仔犬のマーキング動作のような行動を取ってしまう(笑)」
保護者の金銭的負担も大きい。小林誠矢部長が話す。
「決勝まで進めば負担額は15万円ほどになる。すると家計を心配する生徒が、昼食時に鹿児島大学の学食に行きたいと言い出すんです。学食は一般の食堂より安いですから。親を想う子供たちの気持ちが分かるから、私たちもつらい。だから監督や私たちは『いききれ!』と伝えている。つまり、鹿児島大会を勝ち抜いて九州大会や甲子園に出場できれば、寄付金が集まって保護者の負担は少なくてすむ。だから最後まで勝ち上がれ、と」