データではわからないのが高校野球の力
先発は公式戦初登板となる新2年生の川名瑚佑(ごう)。東海大会の1回戦で右ヒジを疲労骨折し、その後、登板ができなかったエースで主将の弓達寛之は、ケガの快復後、センバツの登板に向け、急ピッチで調整してきた。だが、センバツ出場がなくなったことで、今は無理をする時期ではないと、練習試合で調子の良かった2年生を起用した。
聖隷は1回表に2失点したあと、得点を奪えないまま相手の加点を許していく。7回まで2安打3併殺で無得点。守りではふたりの投手が計10安打を打たれ、3失策も失点に絡んで0対10で7回コールド負けとなった。上村監督はこう振り返る。
「大会前の練習試合でも、先制されようが無心に白球を追いかけ、いつのまにか逆転していた。ところが今日は、ミスが出てしまい、そのミスを取り返す力もなく、何もできずに簡単に終わってしまった。ベンチの声もぜんぜん出ていませんでしたし、(守備時も)球際が弱かった」
そして、自戒するようにこう続けた。
「本当は夏に向けて『一からやり直しだ』と、彼らにちゃんと野球をやらせてあげるのが監督である僕の仕事なんだろうけど、それが僕にはできなかった。僕はこの2カ月、悶々としながら野球をやってきて……高校野球が嫌いになっちゃった。そうした気持ちが、選手たちにうつってしまったのかもしれない」
もちろん、センバツ落選の悔しさを晴らすには、夏の選手権大会に出場することしかないことは誰より上村監督自身がわかっている。センバツに近づきながら、春の静岡大会では初戦敗退するという現実を受け入れがたい複雑な感情も吐露した。
「運やまぐれで勝ってきたチームだけど、今日の試合が聖隷の実力だと思われるのは、しゃくですね。いや、これもこの子たちの力。東海大会で準優勝したのもこの子たちの力。力というものは、(机上の)データによって判断できるものじゃない」
そうなのだ。真の実力というのは、データ=数字で推し量れるものではないのだ。昨秋の東海大会において、準優勝の聖隷と、ベスト4の大垣日大に、打率や防御率、総得点や総失点、試合の内容を詳細に比較しても、大きな差はなかった。成績上位校である聖隷の落選に納得し得るデータ(根拠)は乏しかった。だからこそ、私は聖隷が33校目としてセンバツに出場することを、日本高等学校野球連盟の寶馨会長らに強く訴えてきたのだ。