よく耳にする「地中海食は体にいい」「魚のDHAで頭がよくなる」という説も眉唾という。
「イタリア、ギリシャなど地中海沿岸の人々が食べる魚や野菜中心の地中海食が体にいいという説を支持すると思われたのが、2013年に権威ある医学誌『ニューイングランドジャーナル』に発表された報告です。この報告にはいくつもの不審な点があって批判が殺到したため、2018年に撤回されて改めて報告が出ました。しかし、そこにも問題が残っていると指摘されています。
青魚に多く含まれるDHAなどのオメガ3脂肪酸を食べると頭がよくなるというのも根拠がなく、実際にはDHAで認知機能の低下は防げないことが証明されています。
他にも『野菜は一日350g』や『ビタミンCは風邪を防ぐ』など、世に流れる健康情報は科学的根拠を欠く迷信が多いのです」
世にあふれる健康情報に次々と疑問を呈する大脇医師だが、全てを否定するのではない。人間の体が本来持っている能力には深い信頼を寄せている。
「人間は過酷な環境に耐えられるように進化しました。なかでも重要なのは雑食の能力で、胃液や腸液にも殺菌能力があり地面に落ちていたものでも食べられるうえ、植物や肉を分解してエネルギーに変えられます。内臓機能も抜群で、何も考えず野生動物のように暮らしても簡単には死なず、元気に生きられることがほとんどです。それほど奇跡的な生命力があるのに、塩や油といった細かな健康情報を気にして生きるのは、百害あって一利なしと言えます」
フリーター時代、お金がなかった大脇医師は、栄養不足でいつも「食べたい」ということばかり考えていたという。だからこそ、食べたいものを食べられることがまずは大切であり、おいしいものを我慢して健康を気遣うのは本末転倒であることを学んだ。
「これまで述べたように、自分が食べたいものを我慢して節制しても、健康にとってそれほど大きなメリットはありません。だったら、おいしいものを思い切り食べたほうが幸せになれるはずです。楽しい人生を送るために健康があるはずなのに、あやふやな健康情報に振り回されて人生の楽しみを失うのは、どう考えてもおかしい。人間の体はよくできているので、あれこれ心配する必要はなく、堂々と減塩をやめて油を摂ればいいんです」
異色の経歴を持つ医師の提言で、長きにわたる減塩論争に終止符が打たれるか。
【プロフィール】
大脇幸志郎(おおわき・こうしろう)/1983年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。近著に『運動・減塩はいますぐやめるに限る! 「正しい健康情報」の罠』(さくら舎)、『「健康」から生活をまもる 最新医学と12の迷信』(生活の医療)などがある。
※週刊ポスト2022年4月22日号