今年もプロ野球が開幕。ヤクルトとオリックスはリーグ連覇を狙うシーズンとなるが、プロ野球史上に残る金字塔が巨人の9連覇、世にいう「V9」だ。そんな常勝軍団を率いた名将・川上哲治のとにかく厳しい姿勢は、チーム内外に知られていた。(文中敬称略)【全4回の第2回。第1回から読む】
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当時の選手に川上について尋ねると揃ってまずは“厳しさ”に言及する。V9時代、小柄ながらも闘志あふれるプレーで「豆タンク」と呼ばれたのが、広岡達朗のあと遊撃手のレギュラーの座をつかんだ黒江透修である。黒江は川上・巨人について「罰金が多くて参った」と振り返る。
「バント失敗、エンドラン失敗は3000円の罰金。ノーアウトや1アウトで三塁にいるランナーが返せないと5000円の罰金でした。サイン見落としは1万円。当時の1万円は大きいですよ。
罰金は毎月の振り込みから引かれていましたね。得点に絡む活躍には賞金もあったが、賞金は給料にプラスされるので所得税が引かれる。罰金はきっちりマイナス1万円だけど、1万円の賞金は税引きされて9000円なんです(苦笑)」
ショートの黒江やセカンドの土井(正三)は守備のサインが多く、罰金の対象となることが多かったという。ホームランを打っても、サインと違っていたら罰金だった。当時、似たような仕組みは他球団にもあったものの「他のチームにあった情状酌量が、巨人はなかった」(黒江)という。
「結果オーライでいいなら、監督の采配は必要なくなる。それが川上監督の方針だった。巨人の強さの秘密ですね。門限も厳しかったですよ。遠征に行って変な負け方をすると、“今日は外出禁止”とかね」(黒江)
投手も対象となるケースが数多くあった。川上・巨人の2年目からチームを支えてきた“エースのジョー”こと城之内邦雄はこう証言する。
「川上監督はすぐに罰金を取っていたから、みんな全力でやる。気が抜けないんだね。ピッチャーの場合、2ストライク・ノーボールから打たれると罰金だった。それで罰金を取られて頭に来て、(ツーナッシングから)わざとバックネットに向けて投げたことがある(苦笑)」