池上:戦争報道の永遠の課題です。今の日本のテレビは「これから遺体の映像が出ます」と注意喚起してから映像を流します。湾岸戦争では、加害者側のアメリカがイラク軍の遺体を全部片づけてからメディアツアーをしました。情報操作は戦争につきもので、日本で記事を読んだりテレビを見たりする際は、「ウクライナは自国の被害を世界に知ってもらいたいから、少し大げさに報告することもあるかもしれない」と頭の片隅にとどめておくことが必要でしょうね。
水谷:受け手がそうやってバランスを取ってくれれば、報道する立場としても少し心が楽になります。それにしてもこの先、ウクライナ戦争はどうなっていくでしょうか。
池上:ロシアは東部の2州を制圧し、クリミア半島と結ぶ海上の回廊を作ろうとしています。しかしウクライナはそこを奪われるわけにはいかず、徹底して抗戦するでしょう。国際的な第三者が停戦を仲介するしかない。
水谷:2014年のクリミア併合から8年も争いが続き、ウクライナは今、ものすごく結束しているので簡単には収まらないはずです。周囲の大国がどう戦争を収めるかがポイントです。
池上:中長期的には、朝鮮半島のようにウクライナの東・南部が分断される可能性もあります。
水谷:当分は戦闘が続くでしょう。キーウにいるうちにできる限りの取材を行ない、また次に来るための何かを残して日本に帰りたいと思います。
池上:くれぐれも気をつけて帰ってきてください。
(了。前編から読む)
【プロフィール】
池上彰(いけがみ・あきら)/1950年長野県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、1973年NHK入局。1994年から「週刊子どもニュース」のお父さん役を11年務め、2005年よりフリージャーナリストとして活動。2016年より名城大学教授、東京工業大学特命教授。著書に『池上彰の世界の見方 ロシア』など。
水谷竹秀(みずたに・たけひで)/1975年三重県生まれ。上智大学外国語学部卒業。新聞記者やカメラマンを経てフリーに。2004~2017年にフィリピンを拠点に活動し、現在は東京。2011年『日本を捨てた男たち』で開高健ノンフィクション賞を受賞。ほかに『だから、居場所が欲しかった。』『脱出老人』など。
※週刊ポスト2022年5月6・13日号