「まだまだあるぞ。『馬子にも衣装』や『医者の不養生』は、職業に対する偏見に基づいていると言えなくもない。『馬の耳に念仏』『豚に真珠』『猫に小判』は、馬や豚や猫をバカにしている。馬や豚や猫が聞いたら……」
「も、もうこのぐらいでけっこうです。それにしてもご隠居さん、この手の言葉にやけに詳しいですね。こんなにすらすら出てくるなんて」
「毎日、Twitterを見ていれば、この手の話題が次々に流れてきて嫌でも敏感になる。しかし、敏感になればなるほど息苦しさを感じるようになるのが困ったところじゃ」
「話を聞いてると、近ごろよく聞く『アップデート』ってのは、要は粗探しと表面上の取り繕いが上手になって、自分は批判されない側に居続けるための方便に思えてきやす。いじめられる前に誰かをいじめるのと何が違うのか、あっしにはわかりやせん」
「熊さん、それはほかでは言わないほうがいいよ。『遠慮なく叩ける悪者』という甘い蜜を見つけると、たちまち蟻みたいに群がってくる人たちがたくさんいるからね」
「ご隠居さんも言いますね。だけどまあ、ご隠居さんと熊さんっていう架空の人物が言い合ってるんだから、どうってことないですよ」
「だといいんじゃがな。ワシも、誰もが生きやすい社会を目指すのは大賛成じゃ。締めくくりとして、動機や目的はさておき勇敢に声を上げている人たちに向けて、『過ぎたるは猶及ばざるが如し』と『生兵法は大怪我のもと』ということわざを贈っておこう」
「届くといいですね……」