『女性セブン』の名物ライター“オバ記者”こと野原広子が、自らの日常と照らし合わせながら、気になる世の中のアレコレに気ままな意見を投げかける。今回は、海外旅行でパスポートを紛失したらどうなるのか──自らが体験したその実例を紹介する。
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1983年。イタリア・ベネチアを旅していた26才の私は、サン・マルコ広場で30代半ばの日本人・Tさん夫妻と出会った。聞けば数か月前からトリノ市にお住まいとか。
「じゃあ、ご自宅では日本食を食べているの?」と私。日本から出て2週間、白米なしの食事で、がまんの限界を超えていたのよね。「そう。こっちの食材を使って、毎日和食」と奥様が言い、ご主人は「よかったらうちに遊びに来ない?」と誘ってくれた。
いったん夫妻と別れてベネチア観光を続けた後、電車で4、5時間離れたトリノに向かうことにした。電車の乗り方もきっぷの買い方も見よう見まね。途中のベローナ駅で電車を乗り換える間の待ち時間が1時間半。で、そうだ、ここでお金を両替しようと思い立ったわけ。当時、駅には両替所があって、そう悪くないレートで、ドルをイタリア・リラに替えてくれたのよ。
両替後は予定通りの電車に乗って、まっすぐTさん宅へ。聞けば、元高校の美術教師だったご主人が新設される美術ホールに転職するまでの間、ふたりでトリノに住むことにしたという。「日本にいたら私たち、何の接点もなかったよね」と言いながら奥様は親子丼でもてなしてくれた。さらに「泊まっていきなよ」と。
提供してくれた部屋で、私はバックパックの中を整理した。2週間の旅の間に買い集めたお土産や夏服を船便で日本に送ってしまえば、ずいぶん楽になる。「じゃあ明日、一緒に郵便局に行こうよ。手続きが結構面倒だから」と、ご夫妻は何から何までご親切。