もちろん困っている人を助けたいと思う気持ちを否定するつもりはない。大切なのは善意と現実のバランスだ。拙著『マイホーム山谷』では、善意を貫こうとして無理を重ね、このバランスを崩してしまった元ホスピス施設長の半生を追ったが、介護や福祉の現場がスタッフの善意に支えられている現状には、見直されるべき側面が少なからずあるはずだ。
ホテル白根の豊田さんが仕事に込める気持ちを語った言葉がとても印象的だった。
「山谷にいる元日雇い労働者のおじさんたちってさ、家族と断絶した人が多いのよ。理由はいろいろだと思うけど、家族の縁を切ってここに来てる。だからね、私はここで“家族ごっこ”をしてるわけ。それが私の人生も豊かにしてくれるって思っているのよね。それが私のテーマかな」
高齢化。独居。貧困。病。家族の不在。新型コロナの騒動は、山谷という街に染み込んだ様々な問題を炙り出した。それは日本全体の姿を映す合わせ鏡なのかもしれない。
(了。前編から読む)
【プロフィール】
末並俊司(すえなみ・しゅんじ)/1968年、福岡県生まれ。介護ジャーナリスト。2006年からライターとして活動。近著『マイホーム山谷』で第28回小学館ノンフィクション大賞受賞。
※週刊ポスト2022年5月27日号