日本人の8割が50〜60代に差し掛かると「ミッドライフクライシス」、つまり「中年の危機」に直面すると言われる。これは、定年退職や子供の独立など、それまでの生きがいがなくなることで“自分の人生はこれでいいのか”と考えて、心の葛藤や無気力を感じるもの。ミッドライフクライシスは病気ではないが、心の不調を長引かせ、時にはうつ病を引き起こすこともある。
60才以上であれば、認知症の可能性も考えられる。初期症状がうつ病によく似ているため間違えられやすく、まれに「うつ病だと思って精神科で処方してもらった薬をのんだら、認知症が悪化した」というケースもあるという。
うつ病ではなく「男性の更年期障害」の場合もある。この原因はテストステロンの減少だ。
テストステロンは簡単にいえば“男らしさ”を司るホルモン。減少すると男性機能だけでなく、自信や意欲、向上心がなくなる。さらに、脳が老化すると、不安やストレスに対処する力が衰えるため、ミッドライフクライシスを乗り越えられなくなり、うつ病に発展しやすい。『男のヘルスマネジメント大全』著者で、まめクリニックグループ代表の医師・石川雅俊さんはこう話す。
「50代前後は男女ともにホルモンが減少して、更年期障害が出やすくなります。男性の更年期障害は全国に600万〜700万人いるといわれていますが、そのほとんどが診断されていない。女性は閉経の前後に症状が出るので気づきやすいが、男性は少しずつホルモンが減少していくので気づきにくく認知度も低い」(石川さん・以下同)
身体的な症状は、性機能の低下のほか、疲れやすさや筋力の低下、筋肉痛、ほてり、発汗、頭痛、めまい、頻尿など、女性の更年期障害とほぼ同じ。精神的には、不安、イライラ、意欲・集中力・記憶力の低下など。うつ病によく似ているが、だからといって「男性の更年期=うつ病」というわけではない。認知症と同じく、抗うつ剤によってホルモンがさらに減少してしまうケースもある。
「基本的に、更年期障害では“死にたい”と思うほど落ち込むことはありません。うつ病か更年期かは、血液検査でホルモン値を測ることで見分けられます」
妻の声掛けが夫を救う
更年期障害なら、生活習慣で対処できる。加齢とともに減少していくテストステロンをできるだけ維持することだ。
「酒、たばこ、肥満、高血圧、高血糖、運動不足はテストステロンを減らします。適度な運動のほか、魚や肉でたんぱく質を、うなぎやレバー、かきなどで亜鉛を積極的に摂るようにしてください」
精神科医の樺沢紫苑さんは、男性の更年期やうつ病、ミッドライフクライシスにも、適度な筋トレが効果的だと話す。