「来シーズンは、ないと思う」──五輪王者の発言は、世界のフィギュアスケートファンに衝撃をもたらした。2月の北京五輪で悲願の金メダルを獲得したネイサン・チェン選手(23才)は、米国のテレビ局「NBCスポーツ」のインタビューで、今秋から始まる来シーズンへの参戦の可能性について問われると、冒頭のように言い切った。
今年に入ってから、羽生結弦選手(27才)と同期の田中刑事選手(27才)、平昌五輪4位の宮原知子選手(24才)など、日本のフィギュアスケート界を引っ張ってきた選手たちが続々と引退を発表している。そして、ついに羽生の最大のライバルともいえるネイサンまでもが競技生活から距離を置くことを示唆したのだ。
2018年の秋、米国の名門イェール大学に入学したネイサンだが、その後は、多くの時間をキャンパスではなくリンクの上で過ごしてきた。
「在学中、ネイサンはスケートだけをして生きている生活に徐々に疑問を持ち始め、スケート関係以外の友人と交流したり、スケート以外の趣味を充実させるなどライフスタイルを変化させていったそうです」(フィギュアスケート関係者)
そんなネイサンも、北京五輪に向け集中するために2020年からは大学を休学。スケートを最優先にすることで、見事金メダルを勝ち取った。
「彼は、今夏から大学に復学する予定です。統計学とデータサイエンスを専攻しており、『いまは勉強に集中して、知識を身につけたい』と考えているようです」(前出・フィギュアスケート関係者)
先述のインタビューでは、大学卒業後に再び競技に復帰する可能性についても問われたが、「まだわからない。すでに達成したことに満足している」と語るなど、競技生活への未練を見せる様子はなかった。スポーツジャーナリストの野口美恵さんが話す。
「チェン選手は、五輪でも世界選手権でも優勝を果たし、やり切った感がある。心残りがある選手なら卒業後に競技生活に戻ることも考えられますが、彼の場合その可能性は極めて低いかもしれません」
羽生の活躍を語る上で、世界の舞台で競い合ってきたライバルの存在は欠かせないが、近年彼らは続々と引退を決断している。ソチ五輪銀メダリストでカナダのパトリック・チャン(31才)は2018年に、その翌年には盟友、スペインのハビエル・フェルナンデス(31才)も引退している。
「これまで羽生選手は、ほかの選手の去就に大きく影響されず、ライバルが引退していく中でも、自分の目標を定めて着実に進化を遂げてきました。ただ、チェン選手に関しては、自分の方がベテランであり、長い時間をともに戦ってきましたから、最強のライバル、そしてモチベーションの源でもあった。彼の不在を非常に残念に思っていることでしょう」(前出・野口さん)