そしてもう1つ、小栗さんらしい特徴的な演技がある。覗きこむように、探るように相手を見つめる仕草だ。星野源と初共演した塩田武士原作の主演映画『罪の声』の新聞記者役や菅田将暉主演の映画『キャラクター』の刑事役では、人の心の中を見通し、明かされていない真実を探るようにまっすぐに目を向ける。日曜劇場『日本沈没-希望のひと-』(TBS系)の環境省の役人役では、相手の気持ちを伺うように、反応を確かめるように覗き込む。同じような上目使いの仕草でも、役によって、状況によって、瞳の色や強さが変わり、白目が際立つ目が印象的だ。
大河でも、この仕草がその時々の義時の感情、立場をうまく表している。ドラマ序盤、家族や友人に何かあれば、柔らかい眼差しで気遣うように首を傾げて相手の顔を覗き込む。問題が起これば首を前に突き出して、頼朝や仲間の顔を下から覗きこむが、目には不安そうな色を浮かべ、視線が動く。優しく暖かい人柄ながら、自信もなくしっかりした覚悟もできておらず、優柔不断な印象を感じさせる演技だ。
それが、守ろうとした者たちが次々と殺され、その悲しみにふたをして、自らも謀略を巡らせなければならない立場となり、相手を伺うその目は鋭く強く、心の内を見透かそうと相手を見据える仕草へと変わってきた。義時の印象が重く厳しく、感情に左右されない策略家へと変化してきたのだ。
5月1日に公開された『鎌倉殿の13人』の公式ホームページの特集インタビューで、小栗さんは、義時という人の変化について「劇的に変化した感覚はそんなにありませんが、ちりも積もればと言いますか、目の前で起きる出来事に対して『自分ならどういう選択をするのか』ということを考えてきた結果、徐々に今の人物形成になってきたのかなと」と語っている。
毎回欠かさず見ているのだが、積み重ねられていく小さな変化は、なかなか気がつくことができない。それこそが小栗旬という俳優の演技の上手さなのだろう。これから鎌倉幕府の実権を握っていく義時がどう変わっていくのか、ますます目が離せない。