もうすぐ選挙シーズンが本格化する。それに伴い、主要駅前など人が集まるところでは、立候補予定の人たちが街頭演説を活発化させている。街頭演説というと、壇上から一方的に話される言葉を聞くイメージが強いかもしれないが、最近では聴衆との対話を増やす演説が増えるなど変わりつつある。ライターの小川裕夫氏が、街頭演説スタイルだけでなく、有権者にも小さいながらも変化の兆しを見た、高田馬場駅前の該当演説についてレポートする。
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今夏に実施される参議院議員選挙は、事前から盛り上がりに欠けることが予測されていた。特に、定数6の東京選挙区は自民党・立憲民主党の現職議員が引退するものの、構図は変わらずに無風との観測が強まっていた。
しかし、れいわ新選組の山本太郎代表が衆議院議員を辞職して参議院議員に鞍替え出馬を表明。そのほかにも、『五体不満足』などの著者として知られるベストセラー作家の乙武洋匡さんも出馬を表明。これにより、東京選挙区は一気に激戦区と化した。
東京選挙区は有権者数が多い。浮動票を一票でも多く獲得するために、選挙戦では多くの立候補者が街頭に立つ。街頭での活動は、一般的に立候補者たちが自身の政見を述べる場だった。
しかし、ここ数年は従来の街頭演説に変化が見られる。街頭演説のうち、政治家たちが自身の政見を述べるのは長くても30分。その後は、集まったギャラリーにマイクを渡して意見や質問を受け付ける。質問や意見を受け付ける時間はそのときどきで異なるが、1時間以上に及ぶこともある。なかでも山本太郎代表の街頭演説は、長時間におよぶ傾向が強い。
本来、政治家は「自身の意見を言う」ことが仕事ではない。「国民の意見を聞く」ことが本務とされる。岸田文雄首相が「聞く力」を強調したり、公明党が「小さな声を、聴く力」をスローガンに掲げたりしていることは、政治の基本中の基本に過ぎない。
それにも関わらず、昨今は聞く力が強調されるトレンドになっていた。そうした背景が生まれたのは、それまで意見を言う政治家がもてはやされていたからだろう。
しかし、確実に政治の世界にも変化の波が押し寄せている。なぜなら、言うだけの選挙演説から聞くスタイルを採用する候補者・政治家たちが少しずつ増えている。これは、言うだけの政治が飽きられつつあるという予兆かもしれない。
ギャラリーから質問や意見を取り入れる選挙演説のスタイルは今後も増えると思われるが、その一方で一般有権者たちが立候補者や現職の政治家に対して筋道を立てて意見を言うことや質問はできるのか?といえば、残念ながら多くの有権者は質問できない。というか、質問をしない。