一般に「国」という場合、多くの人が思い描くのは「国民国家=ネーション・ステート」だろう。明確な国境があって、その領土の中に国民が居住し、その国民が主権者となって国の諸制度を決めていく─—それらはすべて「国境が閉じている」という前提で成り立っている。それゆえに「国民意識=ナショナリズム」が重視され、国という枠組みの中で経済の成長も考えられてきたのだが、21世紀世界を牽引する経済成長を見せているのは、そうした国民国家に代わる「メガリージョン」だと経営コンサルタントの大前研一氏は解説する。
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21世紀の国家というものを考える際に興味深い実例の一つがイギリスです。現在、同国を率いるボリス・ジョンソン首相は、歴史的に最も愚かなイギリス首相として名を残すことになるだろうと私は考えています。この人はもともとロンドン市長をやっている時からブレグジット(イギリスのEU離脱)推進派でしたが、いまだにその判断がいかに間違っているかを全く理解していません。
イギリスが抱えている最大の問題は、北アイルランド問題です(図表1参照)。1998年に和平プロセスに合意する前は、英国国教徒のほうが多かった北アイルランドと、カトリック教徒の多いアイルランド共和国との間でテロや武装闘争が頻発(北アイルランド紛争)していましたが、イギリスとアイルランドが同じEUになる流れの中で、和平協定が結ばれました。その後、北アイルランド地域ではカトリック教徒が増えているほか、EUを離脱したイギリスから分離して、EU残留=アイルランド共和国との統一を求める勢力が優勢となっています。
かてて加えて、2021年5月にスコットランドの議会選挙が行なわれ、ニコラ・スタージョン首相率いるいわゆる独立派が勝利しました。前回の住民投票では、イギリスからの独立を拒否する勢力が勝利したのですが、それは、当時まだEUメンバーだったイギリスがスコットランドのEU加盟に反対するのを回避するため、独立を思いとどまったという経緯があります。ところが、もはやイギリス自体がEUを離脱しているため、今度こそイギリスから独立してEUに入ろうというスコットランド人が優勢になっているのです。
「国民国家」に閉じこもるイギリスの末路
この問題は、まだまだ流動的です。ブレグジットによって、イギリスはEUの外に出たわけですが、イギリス領の北アイルランドとアイルランド共和国との陸続きの国境に税関など国境管理措置を設けることは困難なため、グレートブリテン島とアイルランド島との間に通関上の境界を設定しました。それでも、数百の港から出たものを検査しなければいけないわけですから、ブレグジットする前と比べると検査が格段に複雑になります。
その上、スコットランドが独立してEUに加盟したらどうなるか? 当然、スコットランドとイングランドの陸続きの境界がEU国境になります。しかし、ここは無数の道路や鉄道が走っていますから、そのすべての通行時に検査や検問をしなくてはいけなくなりますが、それは現実的に不可能です。
それだけではありません。スコットランドが独立すると、当然ウェールズも手を挙げます。このウェールズは、多数の日本企業が進出している地域ですけれども、自分たちもイングランドに征服されたと考える市民が多いので、ここも独立気運が高まっています。
そうなってくると、イギリスは「ユナイテッド・キングダム(UK/連合王国)」ではなく、“シングル・キングダム”あるいは“イングランド・アローン”というふうになる可能性が高まっていくと思います。そんな未来がだんだんと見え始めています。