これらの巨大企業の特徴を一言で言うと、世界中から優秀な人、カネ、技術が集まっているということですが、それを象徴しているのがGAFAMの経営陣です。図表2を見てください。
グーグルを創業したセルゲイ・ブリン氏は、ロシアで生まれています。当時はまだソ連でした。東欧系ユダヤ人の家庭に生まれて、6歳の時にアメリカに移住します。それで、スタンフォード大学の大学院にいる時に、グーグルを起業しました。いまグーグルのCEOをやっているスンダー・ピチャイ氏はインド人で、インド東部のチェンナイ生まれです。チェンナイというのは昔のマドラスです。
それからアップルの創業者スティーブ・ジョブズ氏。父親はアメリカに留学していたシリア人です。母親はアメリカ人ですが、ムスリム男性との結婚が許されなかったため、ジョブズ氏は生まれてまもなく養子に出されています。
フェイスブック(現メタ)を興した人物としてはユダヤ系移民の子孫であるマーク・ザッカーバーグ氏が有名ですが、共同創業者はエドゥアルド・サベリン氏という人物で、この人はブラジル・サンパウロ出身です。アマゾンの創業者であるジェフ・ベゾス氏は、幼くしてデンマーク系アメリカ人の両親が離婚して、母親の再婚相手である養父はキューバ移民のエンジニアです。マイクロソフト現CEOのサティア・ナデラ氏は、インドを代表するIT都市ハイデラバードの出身です。
そして、GAFAMの枠には入っていませんが、いま世界で一番尖った人間として注目されているのはイーロン・マスク氏でしょう。ペイパル創業から始まって、EVメーカーのテスラをつくり、宇宙開発企業スペースXをつくり、そのほかにも新しい事業を他人がやったことがない方法でやるこの天才は、南アフリカのプレトリア(現在の首都)の出身です。しかし、やはり両親が離婚して母親が生まれたカナダに移住し、アメリカの大学に行って起業します。
わかりますでしょうか? 今のGAFAMを支えているこれらの経営陣の中に(引退したマイクロソフト共同創業者のビル・ゲイツ氏を除けば)、アメリカに生まれ育った人は1人もいないのです。これは、非常に重要な事実です。世界中から才能が集まって、さらにアメリカの中で多様な才能に揉まれる中で「0から1を生む」ビジネスが成長しているわけです。
21世紀の新たなフェーズではボーダレス・ワールドになって、かつ、インターネットが登場して情報化・ネットワークの時代となり、国家に代わって「メガリージョン」という新しい経済単位が生まれつつあります。ここでは、民間・起業家主導でルールが決まります。そうした多様性こそが力になることを理解する必要があるのです。
※大前研一『経済参謀 日本人の給料を上げる最後の処方箋』(小学館)より一部抜粋・再構成