ライフ

直木賞候補作家・河崎秋子氏が同郷の作家・桜木紫乃氏と握手を交わした日【後編】

極寒の酪農大国・別海の地

酪農大国・別海町で酪農もしながら執筆、三浦綾子賞で最終候補3作に残り…

 第167回直木賞の最終候補作品が6月17日に発表された。『絞め殺しの樹』で初ノミネートとなる河崎秋子氏(42)は、北海道別海町出身。2019年までは実家での酪農従業員の傍ら羊飼いとしても緬羊を飼育・出荷していた異色の経歴の持ち主だ。2014年当時、在宅介護をしながら羊を飼うハードな生活の中、新聞で「三浦綾子文学賞」の文字に目がとまった。ここから河崎氏の快進撃が始まる。当時の心境を綴った河崎氏によるエッセイを再録する。【前後編の後編。前編から読む】(初出『週刊ポスト』2020年5月22・29日号)

 * * *
 やれることはやった。サロマも完走できなかったし、三浦賞の応募作品も提出後に「ああすればよかった」「こうしたほうがよかったかも」と思ってばかりだけれど、私なりに全力は尽くした。

 そう思って毎日の仕事と介護をこなした数日後、朗報はもたらされた。三浦綾子賞に応募した小説が、最終候補3作に残ったというのだ。

 やった! と喜んだ一瞬の後、私は現実に向き合わねばならなくなった。最終選考は、後日、旭川にある三浦綾子記念文学館で審査委員の先生方による『公開で』行われるという。そしてその選考会に「出席するか」「欠席するか」という選択肢が私に与えられた。

 私は即座に「出席する」と腹をくくった。もちろん、出席した候補者が審査委員の議論に加わるわけでなく、ただ自分の作品が品評されるのを見守ることしかできないのだが、もし落ちることになったとしても、せめて落ちるまでの過程を自らの目で見届けたいと思ったのだ。
 
 自宅のある別海から旭川までは高速道路を利用しても片道八時間。行きはまあ緊張して行けばいいとしても、もし選考の結果がかんばしくなかった場合、気落ちしながら八時間の道のりを運転しなければならないのだ。それに備えて、私は鬼束ちひろの落ち着いた、いや率直に言えば暗いバラードばかりを集めたプレイリストを用意して帰路に備えた。落ち込む結果になったとしたら積極的にドン底まで落ち込んでやる。そこで見えてくる次作への道もあるさ、という心づもりだった(今思うと、後ろ向きにもほどがある)。

 そして選考会当日。別海から車を飛ばしながら(行きは緊張を紛らわせるために明るめのJポップ詰め合わせプレイリストばっかりかけていた)、つらつらと応募作のことを考えていた。

 応募作のタイトルは、「颶風の王」とした。北海道の開拓と馬にまつわる物語だ。いくつか、私が幼い頃から近所のお爺さんや親戚に聞いた逸話や情報が込められている。

関連記事

トピックス

紅白初出場のNumber_i
Number_iが紅白出場「去年は見る側だったので」記者会見で見せた笑顔 “経験者”として現場を盛り上げる
女性セブン
ストリップ界において老舗
【天満ストリップ摘発】「踊り子のことを大事にしてくれた」劇場で踊っていたストリッパーが語る評判 常連客は「大阪万博前のイジメじゃないか」
NEWSポストセブン
大村崑氏
九州場所を連日観戦の93歳・大村崑さん「溜席のSNS注目度」「女性客の多さ」に驚きを告白 盛り上がる館内の“若貴ブーム”の頃との違いを分析
NEWSポストセブン
弔問を終え、三笠宮邸をあとにされる美智子さま(2024年11月)
《上皇さまと約束の地へ》美智子さま、寝たきり危機から奇跡の再起 胸中にあるのは38年前に成し遂げられなかった「韓国訪問」へのお気持ちか
女性セブン
佐々木朗希のメジャー挑戦を球界OBはどう見るか(時事通信フォト)
《これでいいのか?》佐々木朗希のメジャー挑戦「モヤモヤが残る」「いないほうがチームにプラス」「腰掛けの見本」…球界OBたちの手厳しい本音
週刊ポスト
野外で下着や胸を露出させる動画を投稿している女性(Xより)
《おっpいを出しちゃう女子大生現る》女性インフルエンサーの相次ぐ下着などの露出投稿、意外と難しい“公然わいせつ”の落とし穴
NEWSポストセブン
田村瑠奈被告。父・修被告が洗面所で目の当たりにしたものとは
《東リベを何度も見て大泣き》田村瑠奈被告が「一番好きだったアニメキャラ」を父・田村修被告がいきなり説明、その意図は【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン
結婚を発表した高畑充希 と岡田将生
岡田将生&高畑充希の“猛烈スピード婚”の裏側 松坂桃李&戸田恵梨香を見て結婚願望が強くなった岡田「相手は仕事を理解してくれる同業者がいい」
女性セブン
電撃退団が大きな話題を呼んだ畠山氏。再びSNSで大きな話題に(時事通信社)
《大量の本人グッズをメルカリ出品疑惑》ヤクルト電撃退団の畠山和洋氏に「真相」を直撃「出てますよね、僕じゃないです」なかには中村悠平や内川聖一のサイン入りバットも…
NEWSポストセブン
注目集まる愛子さま着用のブローチ(時事通信フォト)
《愛子さま着用のブローチが完売》ミキモトのジュエリーに宿る「上皇后さまから受け継いだ伝統」
週刊ポスト
連日大盛況の九州場所。土俵周りで花を添える観客にも注目が(写真・JMPA)
九州場所「溜席の着物美人」とともに15日間皆勤の「ワンピース女性」 本人が明かす力士の浴衣地で洋服をつくる理由「同じものは一場所で二度着ることはない」
NEWSポストセブン
イギリス人女性はめげずにキャンペーンを続けている(SNSより)
《100人以上の大学生と寝た》「タダで行為できます」過激投稿のイギリス人女性(25)、今度はフィジーに入国するも強制送還へ 同国・副首相が声明を出す事態に発展
NEWSポストセブン