おいしい肉じゃがの残りを食べ終わって、その夜は宿でやはり泥のように眠った。疲れや緊張の反動と、これからの力を養うためだ。ちなみに帰路は、浮かれた気持ちで事故を起こしては悔やんでも悔やみきれないと思い、往路より数段慎重に運転した。居眠り防止のためにJポップをがなるようにカラオケしながら帰った。
あと、桜木さんにいずれお礼しようと固く心に誓った。直木賞パワー、効果てきめんでした。
これから念願の羊飼いと作家生活だ。大変だろうな、という予感はあった。そして、『どれだけ』大変なのか、までは考えが及んでいなかったのだ。【了。前編から読む】
文/河崎秋子
【プロフィール】
河崎秋子(かわさき・あきこ)/1979年北海道別海町生まれ。北海学園大学経済学部卒業後、ニュージーランドで牧羊を学び、実家の酪農従業員の傍ら、2019年まで緬羊を飼育・出荷。12年「東陬遺事」で北海道新聞文学賞、『颶風の王』で14年に三浦綾子文学賞、16年JRA賞馬事文化賞、19年『肉弾』で大藪春彦賞、20年『土に贖う』で新田次郎文学賞受賞。『絞め殺しの樹』が第167回直木賞最終候補作にノミネート。