かつては多くの話題作を呼んだドラマ枠の1つが「20時台ドラマ」だ。しかし、テレビ朝日がこの時間帯のドラマ放送から“撤退”することで、民放主要4局の「20時台ドラマ」が消滅する。テレビ局が進める編成の背景にはいったいどんな事情があるのか? コラムニストでテレビ解説者の木村隆志さんが解説する。
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その一報に業界内がざわつきました。テレビ朝日が木曜20時台のドラマ枠『木曜ミステリー』の終了を発表。次クールの『遺留捜査』を最後に23年9か月の歴史に幕を下ろすことになるそうです。
『木曜ミステリー』と言えば、現在も続く『科捜研の女』を筆頭に『京都迷宮案内』『おみやさん』『京都地検の女』『遺留捜査』『警視庁・捜査一課長』などの人気シリーズ作を輩出した歴史あるドラマ枠。現在も他のドラマ枠に比べて視聴率が低いわけではないだけに、驚きの声も挙がっていました。
ただ、業界内がざわついた最大の理由は、『木曜ミステリー』の終了によって民放主要4局の20時台のドラマ枠が完全に消滅してしまうこと。
各局のゴールデン・プライム帯で放送している『木曜ミステリー』以外のドラマ枠を見ていくと、日本テレビが水曜22時台、土曜22時台、日曜22時30分からの3枠。テレビ朝日が水曜21時台、木曜21時台の2枠。TBSが火曜22時台、金曜22時台、日曜21時台の3枠。フジテレビが月曜21時台、月曜22時台、水曜22時台、木曜22時台の4枠。合計すると、19時台が0枠、20時台が0枠。21時台が4枠、22時台が8枠で、各局が遅い時間帯にシフトしています。
ちなみにテレビ東京が金曜20時台にドラマ枠を編成していますが、ネット局が少ない上に、還暦前後の主演俳優が多い極端な高齢層向けであり、業界内では主要4局のドラマ枠と同列で見られていません。
なぜ20時台のドラマ枠は消滅してしまうのでしょうか。また、ドラマにはどんな未来が予想されているのでしょうか。
テレ朝「高齢層向けドラマ枠」の限界
20時台のドラマ枠が消滅してしまう最大の理由は、広告収入を得やすいコア層(主に10~40代)の個人視聴率が獲れないから。かつては主要4局すべてが20時台にドラマ枠を編成していましたが、家族形態やライフスタイルの変化、エンタメコンテンツの多様化などで、同時間帯の視聴者層が大きく変わりました。
20時台はファミリー層と高齢層の視聴者が多くを占めるようになり、『木曜ミステリー』は、そのうち高齢層の視聴者を手堅く押さえることで安定した視聴率を獲得。しかし、この視聴率が必ずしも広告収入を担保するものではないようです。
テレビ朝日は『木曜ミステリー』を終了する理由について、「木曜日のゴールデン帯全体の編成を総合的に判断した結果」とコメントしていましたが、実際のところ木曜日だけの話ではありません。テレビ朝日は水曜21時台と木曜21時台のドラマ枠も高齢層がメインの視聴者層であり、「営業的にCM枠を埋めていくのが難しく、単価も下がってしまう」などの声を何度も聞いていました。
一方、他局はいち早く20時台のドラマ枠をファミリー層向けのバラエティに変え、ドラマ枠は22時台を中心に編成。さらにドラマ枠は、視聴率だけでなく、配信再生数やSNSの動きなども評価指標に加えられ、広告配信や海外配信での収入増を目指しはじめています。その点、『木曜ミステリー』は根強いファンこそ多いものの、その内容や視聴者層から配信視聴が見込みづらく、今後の行方を不安視されていました。
「それならファミリー層向けのドラマを作って20時台に放送すればいいのでは?」と思うかもしれせんが、「そのような作品ジャンルを見い出せていない」のが現実。かつては20時台に人気アイドルの主演ドラマや、10代の若手俳優を起用した学園ドラマなどが放送されていましたが、低視聴率から軒並み撤退。「グルメ、笑い、クイズなどのほうがファミリー層の数字が獲れる」という判断からバラエティが選ばれています。