長く日本を覆ったコロナ禍も落ち着き、日常が戻りつつある。それなのになぜこんなに心身ともに苦しいのか。その答えは「期待する心」にあった──健康と幸せが手に入る“手放す方法”を名医が伝授!
「日本はいずれ存在しなくなる」──米の実業家、イーロン・マスク(50才)がSNSにこんな投稿をするほど、わが国の人口減少は大きな問題となっている。ここ1年で総人口は64万4000人減り、1950年以降過去最大の落ち込みを記録した。
出生率の低下に加え、深刻なのは自殺者が増えていること。特に命を落とす女性と子供の数はコロナ禍前の2019年と比べると大幅に増加しており、問題の根は深い。
『気がついたら自律神経が整う「期待しない」健康法』(祥伝社新書)の著者で、順天堂大学医学部教授の小林弘幸さんが解説する。
「新型コロナの流行が始まって以降、心療内科の受診率は増加の一途をたどっており、メンタルを取り巻く問題はひときわ重要になっています。
当初はコロナ禍で他者とコミュニケーションが取れずに孤独を感じる人が多く受診していましたが、いまは反対に、日常が戻りつつあることで他人との距離が以前よりも近くなり、そのことをストレスに感じて心身の健康を害する人が増えています。コロナ禍でコミュニケーションが遮断されていたぶん、今後 “ポストコロナ”の時代はその揺り戻しが来て、以前にも増して対人関係が重要視されるようになる、それゆえにストレスを抱える人が増えることが懸念されます」(小林さん・以下同)
つまり、ポストコロナの時代を心身ともに健康な状態で生き抜くためには、対人関係でストレスを抱えないことがポイントになる。
「そのためにいま、真っ先に身につけるべきは“期待しない”という心の習慣をつけることです。相手や他人に期待するほど、私たちの健康と幸福は害されていくのです」
期待する心が自律神経を乱す
《期待のホープ》《期待に応えたい》──長らくポジティブに捉えられてきたこの感情を手放すことがなぜ健康や幸福につながるのか。
「内臓や代謝など体の主機能を司る自律神経に関する研究を長年にわたって行ってきた中で明らかになったのは、“期待”という感情を向けられた人は自律神経を乱しやすいということ。
期待された瞬間はポジティブな気持ちになりますが、それに応えられずがっかりされると、その人の感情は一気にマイナスまで落ち込みます。この“振れ幅”の大きさが自律神経を乱し、血液の質や流れ、ひいては脳から末梢血管まで体全体に悪影響を及ぼしてしまうのです」