歳を重ねるにつれて発症するリスクが高くなる目の疾患として緑内障や白内障がよく知られるが、同じように怖い病気として「黒内障」がある。黒内障を発症すると、多くのケースで片方の目に黒い幕が下りたかのごとく視界が真っ暗になる。中には無数の黒い点が出現して視野の一部が欠けたり、目の奥で爆発があったような感覚で光が走った後に、モヤが出現して視野が遮られていくケースもある。
5~10分すると回復することが多いが、脳梗塞につながるリスクがあるなど、放置してはいけない病気だという。では、どのようなメカニズムで黒内障は起きるのか。
人間の体には血管が張り巡らされ、短時間で血液が循環することで全身の健康が保たれている。
だが、血液中の悪玉コレステロールや脂肪でできたゴミ(プラーク)が動脈の内側に溜まると線維化し、血管が柔軟性を失って動脈硬化が生じる。さらに蓄積したプラークが破れるなどすると、血液が固まって血栓ができる。それが何らかの拍子で剥がれると動脈内を流れて血管を詰まらせる可能性がある。
この現象は脳に血液を送る頸動脈で起きやすい。愛媛大学医学部附属病院抗加齢・予防医療センター長で医師の伊賀瀬道也氏が語る。
「心臓から送られてきた血液は頸動脈で脳に向かう内頸動脈と、頭蓋骨などに向かう外頸動脈の二手に分かれます。川と同じで二股に分かれる地点には血液が勢いよくぶつかるため、老廃物が溜まりやすくプラークや血栓ができやすいのです」
そして、剥がれたゴミが内頸動脈から枝分かれしている眼動脈で詰まると、黒内障が生じるのだ。
「眼動脈は非常に細いため、小さな血栓でも詰まる可能性があります。また、眼動脈自体の動脈硬化が進んだ結果、血管が狭くなって血流が塞がれ、黒内障となることもあります。つまり、黒内障の発症はすでに動脈硬化が進んでいることを示している。脳と目は繋がっているので、黒内障になったということは、いつ脳梗塞になってもおかしくない状態だということです。血栓による血管の詰まりが目に起きるのか脳に起きるのかの違いでしかない」(伊賀瀬医師)
ただし、目の症状は一過性のもので収まる。
「眼動脈に血栓が詰まっても血流が押し流すこともあるし、血液中を循環するプラスミノーゲンというタンパク質が血栓などを溶かすため、一時的な症状だけで目の機能が回復するのです」(伊賀瀬医師)
そのため見過ごされがちだが、二本松眼科病院の眼科専門医である平松類医師は、「症状が出たら必ずすぐに医師に相談を」と警鐘を鳴らす。
「黒内障は一般的に知られていないし、痛みを感じないので、“疲れ目”程度で流してしまって診察に来ないケースが実に多い。黒内障を発症した人の1~2割が将来、脳梗塞を起こすという統計があるのですが、それも黒内障で診断を受けた人の数を元にしたものなので実際にはもっと確率が高い可能性もあります。眼科でいいので、すぐに受診しましょう」