YouTubeの黎明期、言葉の壁を乗り越えて再生回数を増やせるジャンルは、かわいいペットだと言われてきた。いまも愛らしい動物の動画は人気で、それはテレビ放送でも似たような傾向にある。SNSで人気の動物コンテンツをテレビが改めて紹介するテレビ番組が増加している裏側には、どんな事情があるのか、ライターの宮添優氏がレポートする。
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テレビ局で働く藤岡良太さん(仮名・40代)のノートパソコンには、可愛い猫や犬、そして赤ちゃんなどの映像が次々に映し出されていた。どれも微笑ましい映像ばかりで、楽しげな仕事をしているようにも思えたが、藤岡さんの目は死んだ魚のように濁り、覇気もない。そして吐き捨てる。
「こんなの、テレビじゃないっすよ……。ネット上のまとめサイトと何が違うのかと問われても、反論できません」(藤岡さん)
藤岡さんはかつて報道局に所属し、バリバリの現場記者として活躍。事件取材では特ダネを入手し、社内表彰を幾度も受けた。その後、情報番組担当に異動しディレクターとなった。そして、いま担当しているのが可愛いペットや赤ちゃんなど、視聴者が撮影した何十、何百という映像を編集し、番組内のコーナーで放送する、という仕事だ。
「昔なら、こうした映像は国内外の映像会社やエージェンシーから買い取って放送していたのですが、国民総スマホ社会となった今では、視聴者から直接、入手するのが主流になりました。以前、数字(視聴率)をとるのは『ラーメンとペットだ』と自虐的に笑うテレビマンがいましたが、今では本物のキラーコンテンツ。実際に数字もいい」(藤岡さん)
事実、情報番組やニュースを見ていると、局がどこかに関わらず、必ずと言っていいほど、こうした「視聴者映像コーナー」が差し挟まれる。可愛いペットだけでなく、事故の瞬間やドラレコ(ドライブレコーダー映像)などの視聴者映像をテレビで見ない日はないほどで、番組制作がこれらに頼っていることは明らかである。
これらの傾向について、ネットで「テレビ局がネットの映像を使って楽をしている」と小馬鹿にされていることも藤岡さんは知っている。
「テレビでこうした視聴者映像を流すと必ず『前にネットで見た』とか『テレビはやっぱり遅れている』と言われます。はっきり言ってその通りで、テレビマンとしては忸怩たる思い。しかし、コスパがよく数字も良いとなれば、上層部からは『もっと尺を伸ばせ』『ニュースでも扱え』と言われる。心を無にしてやるしかない」(藤岡さん)