報道機関、特にテレビのニュースや新聞などに求められているのは自ら収集した一次情報による発信のはずだ。だが、事件や事故を報じるときですら視聴者映像にまず頼ることの繰り返しを重ねてきたことが、ある大きな弊害をも生み出しているという。
「中には、視聴者映像さえあれば番組が作れる、と思い込んでいるようなプロデューサーやデスク、ディレクターもいて、ただただ視聴者の映像を右から左に流していく、というような現場もある。だから、映像が撮られたシチュエーションの確認を怠り、放送事故になったり、フェイクニュースを流してしまう事態にもなっています。ネットでそれが指摘され、ミスしたテレビ局だけでなく、テレビ業界全体の信頼失墜にもつながっている」(小島さん)
小島さんが言うシチュエーションの確認というのは、5W1H、いつ(when)、どこで(where)、だれが(who)、何を(what)、なぜ(why)、どのように(how)という、情報を伝えるのに必要な基本要素の確認のことだ。この確認をするなかで、提供された映像が提供者本人が撮影したものではないことが分かったり、まったく別の映像を偽って提供されようとしていたことに気づくこともある。小島さんの場合、視聴者映像の真贋確認については、撮影者の情報を鵜呑みにするのではなく、警察や消防に電話をかけたり、現場が本当にそこなのか地図で確認したり、現地住人に電話で問い合わせたり、またネット上に同じ映像や写真はないか、独自の手法を使って調査するなどして、幾重もの確認を行っているという。
もちろん、多くの記者やディレクターたちが小島さんと同様に、視聴者映像を使用する際には丁寧に確認をし、それが事実かどうか検証した上で放送している。ネット上で拡散され、SNSのタイムラインへ自動的に流れてくる映像には出所や真偽が不明のものもかなり多いのは、多くの人が感じていることだろう。それに比べれば、テレビで流れる映像は多くの人のチェックや検証を経たものであり、今なおその信頼性は高い。
視聴者映像を独自に入手し、テレビ局に販売するという新興の映像エージェンシーも存在するが、事実確認の精度はあまり高くないと小島さんはいう。実際にいまのところ、それらの業者を活用している社は少ない。
しかし今後、減収傾向にあるテレビ局が安価な番組制作を続け、さらに視聴者映像に頼り続けるような事態になれば、ミスは増え続け、もはやネットとテレビの信頼性の差は無くなってしまう。実績を積んできたはずのテレビが信頼を損なうことを繰り返せば、ただでさえ伸び悩んでいるテレビの広告費は停滞し続け、テレビ局は自身の首を絞めることになりかねない。現役テレビマンの多くがこのことに気がついているはずなのだが、安く番組を作ることができるという「事実」の前に「信頼されるテレビ局に」というプライドは、崩れ去る寸前なのかもしれない。