海だけでなく山岳の景色も美しいイズミル。

海だけでなく山岳の景色も美しいイズミル。

 日時の約束が決まっていないことに私はストレスを感じ始めていたのですが、逆にトルコの人は、時間を決めたり、時間が決まっていることにストレスを感じているように見えました。

 商品の納品を発注した業者に「この日までに作業を終えて納品してほしい」と伝えると、「どうしてあなたの決めた日時に終わらなきゃならないの? 完成した時が、期日です」と言われたことがありました。これは特別なケースのように思うかもしれませんが、水道が故障して水道業者に頼んでも、友人に、貸したものをこの日までに返してほしいと言った時も彼らは驚いていました、こちらがスケジュールを決めることに怪訝な表情を浮かべるのです。トルコの人にとって「期日」は「おおよその目安でしかいない」と、私は解釈している最中です。

 一方で、これは「計画性がない」とも言い換えられると思います。ネガティブな印象ですが、その時の状況次第で決めればいいという、柔軟性の高さも感じています。日本だとよく会社などで、部下や仕事仲間の失敗に対して怒っている人がよくいますよね。でも、トルコの場合、その時々で、みんな冷静に淡々と対応していくだけ。すぐに解決策をみつけようと話し合いが始まります。感情的になることはなく、傍から見たら“想定外”が当たり前のように進んでいくのです。

 一度、トルコ人の友人に、「どうして予定や計画を決めないで冷静でいられるの?」と尋ねたことがあります。彼女はこう言いました。

「計画するからうまくいかない時にパニックになるんだ。物事はほとんど計画通りに進まないものだって知ってるでしょ?」

 先のことを具体的に決めないので、毎日がある意味で“想定外”であり、それに対応するのが当たり前。そんな感覚なんです。そして、その彼女にこう言われ、ひどく落ち込んだことを思い出します。

「どうしてあなたは時間と計画の話ばかりして、“元気にしてた?”とか、“昨日は何したの?”とか、人間らしい会話をしないの? あなたはロボットみたい」

 生まれてから人生の大半を日本で、東京で過ごした私は、思えば、ずっと時間に追われていたように思います。子供の頃は学校や習い事で時間を細かく区切られ、社会に出てからは仕事とプライベートで、気づけば「時間がない」と焦っていました。

 計画性があれば無駄を省け、効率よく物事が進み、結果、楽しく有効に時間を使えると信じて生きてきました。でも、トルコの人たちの目に写った私の姿は、人間らしさのないロボット。全く人生を楽しめていないように見られたのです。しばらくは本気で落ち込みました。

 トルコにもいろんな人がいますし、なかには、細かく予定を決めたがる人もいるかもしれません。それにしても、多くの日本人みたいに時間に支配された生活をしている人を、トルコで私は見たことがありません。

 移住から1年が経ち、私も「効率」や「時間の無駄」という言葉をあまり使わなくなりました。なぜなら、その「価値」と「意味」を共有できる人がいないからです。トルコに来て最初のころは「時間の無駄」という言葉を、一日に少なくとも1度は使っていました。するとそれを聞いた相手は毎回、「私たちには無限に時間があるよ~」と笑うのです。時間は無限ではないはずですが、日常生活で焦るほどに時間がないわけではない、という意識なのでしょう。

 最近では「焦らない」ということがやっと身についてきたのも、私が焦っても相手が焦ることは絶対ないからと気づけたから。私も徐々に変化しているのかもしれません。
 

【プロフィール】
NATACO/1983年東京都生まれの39才。食に造詣の深い祖父と父の影響もあり食の世界へ。現在、グルメメディアの公認料理家、フードブランドプロデューサー、企業向けレシピ提供など、枠にとらわれない食のフィールドで活動中。コロナ渦の中、自宅でひろゆき、中田敦彦、メンタリストDaiGoらのYouTubeを見て、「やりたいことは実現できる」と影響を受ける。2021年から生活の拠点をトルコのイズミルに移し、現在“トルコ生活”2年目に突入中。 

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