人類の歴史を振り返ると、現在のように食べ物が周囲にあふれている時代はごく最近、訪れたばかり。かつては「獲物がなければ食事はなし」という時代が長く続いた。非常時の備えとして食べ物を長持ちさせるため、人類はさまざまな工夫をしてきた。その1つが食品添加物だ。大妻女子大学教授で食品添加物に詳しい堀江正一さんが話す。
「豆腐を製造する際に必要な『にがり』や、古代ローマ帝国時代から肉の保存に用いられてきた『岩塩』なども食品添加物の起源の1つといえます。人類は岩塩が保存性を高めるだけではなく、肉の色や風味も高めることを経験的に知っていたのです。
科学の進歩により、岩塩に含まれる硝酸という物質が肉汁の中の微生物によって亜硝酸になるため、発色効果を示し、保存に適していたことが判明しました。その技術を応用し、現在ではハムやソーセージなどには人工的に岩塩に似せて作った亜硝酸ナトリウムが使われています。
また、保存料としてかまぼこなどの練り物に使われるソルビン酸も、本来は自生して赤い花を咲かせるバラ科のナナカマドの未成熟果汁中に含まれる天然の物質が由来です。現在はこれを合成して使っているわけです」
効率やコスト、安定性の問題から、天然のものではなく合成の添加物を使うようになった。そして、戦後、食品衛生法が定められ、安全だと確認された食品添加物のリストができた。しかし1955年、「森永ヒ素ミルク事件」が起きた。
「粉ミルクの安定剤として使われた工業用の第二リン酸ソーダにより130人の乳児が死亡した事件です。これをきっかけに食品添加物の純度規格基準が定められ、日本の添加物規制はさらに厳格化されました」(堀江さん・以下同)
その後、試験技術も発達すると遺伝子を傷つけたり、発がん性のある添加物が相次いで見つかる。防腐剤として使われていたフリルフラマイドという食品添加物は禁止されることになる。現在は安全性と有用性の両方が考慮されており、食品保存にどんなに有用であっても消費者の健康を害するようなものはふさわしくないと考えられている。
「食品の品質低下を防ぎ、消費期限を延ばすために保存料や酸化防止剤などの食品添加物が使われています。空気中には当然、酸素が多いですから、そのまま置いておけば酸化する。それを防ぐために酸化防止剤を使います。例えば、酸化のスピードをおだやかにするビタミンCが多く使われています」