安倍晋三元首相を銃撃した山上徹也容疑者のものと見られるTwitterアカウントが7月19日に閉鎖された。同アカウントは2019年10月に開設されており、〈オレが憎むのは統一教会だけだ。結果として安倍政権に何があってもオレの知った事ではない。〉などの投稿から、犯行の動機の解明につながる記述も見受けられる。
山上容疑者は、NEWSポストセブンが2019年10月に公開した作家・橘玲氏の寄稿〈映画『ジョーカー』が描いた「下級国民の反乱」〉をリツイートしており、この記事について複数の投稿があることがわかった。山上容疑者は映画『ジョーカー』に何を感じていたのか。犯行に至った心理と背景を読み解くべく、橘玲氏にあらためて話を聞いた。
──山上容疑者が橘さんの書いた映画『ジョーカー』に関する記事をリツイートしていました。続けて別のユーザーとのやりとりの中で、〈ええ、親に騙され、学歴と全財産を失い、恋人に捨てられ、彷徨い続け幾星霜、それでも親を殺せば喜ぶ奴らがいるから殺せない、それがオレですよ。〉という書き込みもありました。これは、犯行に至る背景を語っているようにも思えますがいかがでしょうか。
橘:銃撃事件とその直後の報道で、映画『ジョーカー』と似ていると感じていたので、容疑者が私の記事を読んでいたというのは驚きました。『ジョーカー』では、主人公のアーサーには政治的・思想的な背景はなにもありません。たしかに格差拡大への怒りで群衆が反乱を起こす場面が描かれてはいますが、アーサー自身にはエリートや富裕層に対する憎悪もなければ、アンチ・グローバリズムや反資本主義などのイデオロギーもまったくありません。
同様に今回の容疑者も、安倍元首相の政治信条にはなんの関心もなく、カルト宗教団体に人生を破壊されたという個人的な恨みが犯行の動機とされています。しかし、背後からなんのためらいもなく2発の銃弾を浴びせるというのは、自分の行為が絶対的に正しいという確信がなければ不可能です。報道でもそこがよくわからなかったのですが、〈ジョーカーという真摯な絶望を汚す奴は許さない。〉という投稿を見て、自分とジョーカーを重ね合わせていたのではないかと感じました。
──容疑者も「真摯な絶望」を感じていた?
橘:今回の容疑者の特徴は、“絶対的な孤立”ではないでしょうか。すべてのメディアが彼の過去を追っているわけですが、2週間ちかくたっても、高校時代と自衛隊入隊、最後に勤めていた京都府内の倉庫のこと以外はわからない。海上自衛隊を退職したあとは、ファイナンシャルプランナーや宅地建物取引士などの資格を取り、複数の会社で派遣社員やアルバイトとして働いていたとされますが、その間のことを証言する友人などはまったくいない。