だとしたら、逆の因果関係もあったのではないか。自衛隊を退職したあと、頑張って資格を取ったにもかかわらず、40歳を前にして、社会からも性愛からも排除されているという現実を突きつけられた。“とてつもない孤独”のなかで、なぜ自分の人生はこんなことになったのかを考えていくうちに、人生をさかのぼって教団を悪魔化するようになっていった。
すべての困難の原因が教団にあり、自分は純粋な被害者(善)だとするならば、その教団とかかわっていた(とされる)元首相が絶対的な「悪」として立ち上がってくるという構図は理解できます。確信があったわけではありませんが、容疑者の『ジョーカー』への思い入れがわかったことで、今回の事件も、京アニ事件(2019年)や大阪の診療クリニック放火事件(2021年)などと同じく「下級国民のテロリズム」の範疇に入るのだろうといまは考えています。
【プロフィール】
橘玲(たちばな・あきら):1959年生まれ。作家。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎文庫)、『言ってはいけない 残酷すぎる真実』(新潮新書)、『上級国民/下級国民』(小学館新書)などベストセラー多数。『無理ゲー社会』(小学館新書)では、映画『ジョーカー』の社会的側面を分析するとともに、リベラル化する社会の生きづらさの正体を解き明かした。