処方された薬をのみ切れない「薬ののみ残し」が大きな問題になっている。厚生労働省の調査によれば、5割以上の患者が薬をあまらせた経験があり、約9割の薬局でのみ残しがある患者を抱えていることがわかった。
「患者の性別や年齢は、薬を減らせるかどうかに一切関係がありません」
そう断言するのは、できるだけ薬を使わない高血圧治療を実践する坂東ハートクリニック院長の坂東正章さんだ。坂東さんのもとには全国から、“降圧剤を減らしてほしい”と多くの患者が集まる。
「高血圧の治療の要は、食生活の改善と運動療法です。生活習慣が改善されて血圧のコントロールがうまくいけば、減薬や薬の中止は充分可能です。このことを理解した患者さんは、生活を変えるべく努力して、減薬を実現しています」(坂東さん・以下同)
坂東さんの病院には、管理栄養士や、運動療法指導士の資格を持つ看護師が常駐している。医師の診察とは別に、専門家が徹底的に食事や運動などの生活指導を行うことで、患者個人では難しい日常生活の改善が望めるのだ。
「『塩分を控えめにしてください』と言われても、ほとんどの患者さんは具体的に何をすればいいかわかりません。塩分が少ない食事をしているつもりでも、実際に管理栄養士が話を聞くと、調味料などで塩分量が増えていることは少なくないのです」
生活習慣の改善と並行して取り組みたいのが、家庭血圧を正しく測ることだ。
「家庭血圧の測り方を患者に伝えない医師も多く、高血圧患者の多くが家庭血圧を正しく測れていません。誤った測り方をすると数値は上昇しますし、病院で測る血圧は血圧計の機種や緊張などから一般的に家庭よりも高い数値が出やすい。そうした“不正確な数値”をもとに処方すれば、不必要な薬まで増えます」
クリニックでの治療は、正しい血圧の測り方を指導するところから始まる。
「朝は起床して排尿後すぐに背もたれのある椅子に座って、1〜2分安静にした後に測ってください。軽作業や会話などで血圧は高くなります。夜の計測は入浴や食事、飲酒の影響を受けるため、主治医と相談して計測時間を決めてください。
計測する機械は上腕式家庭血圧計がベストです。また、右腕で測ると高く表示されるため左腕で測定します。測定する部屋の温度は暑すぎず寒すぎず、適温の環境にすることも大切です」