結局、この院長はWAMから4000万円を借り入れ、約束通り手数料の50%、2000万円を吉羽容疑者が運営する会社名義の口座に振り込んだという。その後はLINEを通じて吉羽容疑者ともやり取りをしていたが、知人の厚労省OBにそのことを話すと『それは詐欺です』と忠告された。
福岡県警では、全国で複数の施設が同様の被害に遭っていることを把握しており、被害総額で数億円以上にのぼると見て調べを進めている。吉羽、渡部両容疑者と接触していた都内の医療法人の関係者はこう語る。
「2020年8月、大阪市内のハイアット・リージェンシーの応接室で交渉が行なわれました。彼らは上層階の一室を定宿として使っていたようです。吉羽容疑者は渡部容疑者の隣にいて、相槌を打っていた。
複数回の交渉を重ね、(WAMのコロナ特別融資で)3億円の補助金が下りるというので、50%を手数料として支払う約束になりました。ところが補助金の話は、しばらくしても全く進展がなかったため、本当のWAM職員に頼んで申請を代行してもらったんです。担当者から渡部容疑者に『直接WAMに出した』と連絡したところ、『勝手なことをされたら困る』『WAM内でも問題になっている』『訴えられるよ』とまくしたてられた。最終的に、『内部で手を打つから』ということで、約40%の約1億2400万円を渡部容疑者の会社の口座に振り込みました。
その後、わかったことですが、吉羽容疑者と渡部容疑者はうち(医療法人)の名刺を勝手に作り、“理事”という肩書きで配っていた。まるでうちが彼らの活動にお墨付きを与えたかのように活動していたことに憤っています」
この医療法人は2021年1月以降、渡部容疑者と連絡が取れなくなったという。一方の吉羽容疑者は「うちの担当者が“詐欺ではないか”と問い質したんですが、『自分も渡部に騙された』と返信してきたと聞いている」(同前)と、“私も被害者”だと主張するようになったという。
「吉羽容疑者は、無利子無利息、返済はかなり先というWAMの制度について、『私も弁護士や税理士、WAMにも確認しました。返さなくてもいいお金なんですよ』と被害者に説明していたようです。市議という肩書きの吉羽容疑者を信用して借り入れた人も多い」(前出・捜査関係者)
最終的に事件は吉羽容疑者と渡部容疑者の仲違いで明るみに出る。渡部容疑者が昨年2月頃に「吉羽市議に1億数千万円を盗まれた」と福岡県警に相談、その捜査の過程で補助金詐欺が発覚し、5人の逮捕となった。
吉羽容疑者は「体調不良」を理由に今年5月から議会を欠席ていたが、7月8日付の自身のブログでは『足がすくんでしまう』というタイトルで安倍元総理の銃撃事件に触れ、こう締めくくっていた。
〈暴力に屈してはいけない!と声高に言う議員もたくさん居るが、今の私は、とにかく恐怖が勝ってしまって、、足がすくんでしまう。怖い。〉
迫る捜査の手に対しての「恐怖」でもあったのだろうか。