日本人の3人に1人が患うといわれる「痔」。「少しぐらい痛くても大丈夫だろう」と、放置していないだろうか。市販の薬で違和感をごまかし続けていたら、取り返しのつかないことになりかねない。痔はがん化することもあるのだ。
24年間にわたり、約10万人の肛門を診てきた医師で、『痛み かゆみ 便秘に悩んだらオシリを洗うのはやめなさい』(あさ出版)の著書がある大阪肛門科診療所の佐々木みのり副院長が、肛門にできるがんを防ぐ生活習慣のポイントを解説する。
「まず重要なのは、痔を予防しつつ、過剰な衛生習慣をやめることです。便秘や下痢などで排便に問題を抱えていると痔になりやすい。下痢になると痔ろうに、便秘は切れ痔になりやすい。がん細胞は炎症があるところに発生するので、肛門付近の炎症は、がんのリスクを高めるということです」
炎症を抑えるために、清潔を心掛けたいところだが、「肛門の洗いすぎもよくない」と佐々木医師が続ける。
「肛門周りの皮膚は薄くてとてもデリケートで、目の周りと同じくらい丁寧に扱う必要があります。お尻を温水洗浄便座で洗いすぎると皮膚が荒れ、慢性的な炎症を起こします(肛門が固く開きにくくなり、切れ痔になることも)。また、オキシドールやクレゾールなどで必要以上に肛門を消毒すると皮膚に必要な常在菌がいなくなり、乾燥と皮膚荒れで炎症が起こりやすくなります。するとがん細胞の発生母地源となるリスクが生じます」
そもそも「スッキリと完全に排便ができていれば、トイレットペーパーに便がほとんど付着することもなく、肛門を過度に洗う必要もない」(同前)という。
ただし、年齢を重ねれば自然と「排便力」が落ちてくる。そうなると、便秘を起こしやすくなり、お尻のトラブルの発生源となる。
「排便力が落ちると、トイレですべての便を排出しきれずに肛門付近に溜まってしまうことがあります。肛門付近を拭いた時に紙に便が多く付着するのであれば、『出口の便秘』を起こしています。便秘は大腸だけではなく、肛門の出口付近でも起こります。肛門の近くに溜まった便が原因で痔ろうなどになる可能性もあるのです」(佐々木医師)