当時の特捜部の取調室。
「インテリのエリートに何がわかるのか!」
そう声を荒げる檜山氏に対し、安保検事はこう語りかけた。
「自分は秋田の農家の生まれで、貧しい生活の中で苦学したんです……」
高尾氏が指摘する。
「大企業の社長を相手にした安保さんは、相手のプライドを傷つけないよう注意しつつ、自身の身の上話などをして少しずつ心を開かせる。その態度に感銘した檜山社長は、田中角栄への5億円贈賄の供述を始めたんです」
重要人物である丸紅の役員2人に自供させた“落としの村田”こと村田恒検事と若手ながら頭脳明晰と評価され、のちに検事総長になった松尾邦弘検事の活躍も光り、捜査は大きく前進した。
(後編に続く)
※週刊ポスト2022年9月2日号